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2/12 平昌 選手村 No.3

 

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「そ、そそそそんなんじゃ……!」

「いいじゃん今さら」

「な、何が!?」

「ーーねぇ、

すると歩夢くんは私の頬に手を当て、妖艶とも言える微笑みを浮かべた。そして、私の目を強く深く見据えて、こう言った。

「しよっか、じゃあ」

血が沸騰して蒸発しそうになるくらい、体温が一気に上がった気がした。こんな見た目も中身もかっこいい人に、こんな風に言われてしまったら、もう何もかもどうでもいい気がしてしまう。

ーーだけど。

「だ、だめです!」

私は歩夢くんの手を振り払って、必死に言った。

「なんで? いいでしょ、減るもんじゃないし」

「わ、私のHPは確実に減るの!」

「はぁ? そんなもん寝れば回復するよ。なんなら一緒に寝てあげてもいいし」

「ーー! そんなの余計減るわ! とにかくダメ!」

「やだ。もうするって決めた」

「ダメだってば! そういうのはお付き合いしてる人と!」

私がそう言うと、歩夢くんは口を閉ざした。

ーーそうだよ! そういうのはちゃんと恋人同士じゃないと! こういうのよくないって! うんうん!

歩夢くんが黙ったことで、1人強気で納得する私。

あれ、でもお付合いといえば、そういえば歩夢くんって確か……。というか、かくいう私も。

「ーーなら。俺と……」

「そういえば歩夢くんって彼女作らないんだっけ。まあ、私もそんな感じなんだけどさ」

そう言って、歩夢くんが何かを言いかけてたのに被せてしまったことに気づき、私は少し慌てた。

「あ、ごめん。歩夢くん今なんて言った?」

「…………いや。なんでもない………」

なぜか歩夢くんは呆然としたような顔をしていた。

「え、どうしたの?」

「いや……それよりが言ったのはどういう意味?」

「あ、前に來夢くんが「歩夢はボードに集中したいから彼女とか作ってる暇ないんだってー、モテるのにもったいないよなー」って言ってたのを……」

「俺のことじゃなくて。のこと」

「あ、私? 私も同じ。写真に集中したいから、今はそういうのいいかなって」

そうなのだ。私は渾身の1枚を撮るまでは全神経を、全活力を写真に注ぎたい。

彼氏がいる友人の話を聞いたりSNSを見たりすると、やれ映画だ、やれディズニーランドだ、やれショッピングだと、お出かけして彼氏のためにおしゃれをしてと、とても忙しそうで。

今の私にはとてもじゃないが、そんなことを楽しむ余裕はない。

だから、スノーボードで頂点に立つために日々を生きている歩夢くんも、私と一緒の状況なんだろうなあと思っていた。來夢くんもそう言っていたし。

「まあ、私みたいなカメラおたくと付き合いたい物好きなんていないと思うけどねー」

私は笑いながら冗談っぽく言った。ーーすると。

「……ったく、めんどくさ」

なぜか歩夢くんは、少しうつむき加減になり、ぼそりとそう呟いた。その口調がイライラしているようにも聞こえて、私は身構える。

「え、な、何? 歩夢くん」

私がおずおずと尋ねると、歩夢くんは顔を上げる。やはり少しイラついたような表情で、眉間に皺がよっていた。ーーな、なんだろう。なんな怒らせることを言ったのだろうか。

「あー、そうだよ。俺は彼女とかいらない。ボードに集中したいから。と同じだよ。ーーだけどね」

「う、うん」

「我慢ばっかりだから、やっぱたまには発散したいわけ」

「ーーえ」

そして歩夢くんは私の耳元でこう囁いた。

「だからいいでしょ、1度してるんだから。キスくらい」

「ーー!」

耳に息がかかるように言われ、ぞくりとして身を震わせる。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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