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2/11 平昌 選手村 No.1

 

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歩夢side

朝俺が目を覚ますと、卓はまだ寝ていた。仕方なく1人で朝食を摂りに行くと、食堂にはハーフパイプ勢は1人もいなかった。ーーも。

食べ終えてから部屋に戻ると、卓はいまだに眠りこけていた。そういえば、あまり朝は強くないんだったな、卓。

早く昨日のことを聞きたかったけれど、それだけのために起こすのは……なんとなく、に対して必死感が半端ない気がしたので、俺は控えていた。

しかし部屋で今日の練習の準備をしていると。

「ーーうー、眠い……」

卓がそんなことを言いながらベッドの上で身を起こした。やっと起きたのか。これでようやく昨日の件について聞ける。俺は卓の頭が完全に起きるまで、気のない素振りで準備をしながら待つ。

ーーすると。

スマホのLINEの通知音が鳴った。俺のスマホからも卓のスマホからも鳴ったので、業務連絡だろうか。

そして、LINEを立ち上げると。

【今日は悪天候のため練習場は閉鎖されます。トレーニングや休息など、各々自由に過ごしてください。 】

という、スノーボードの大会スタッフからの連絡だった。

練習中止か。 そういえば、窓の外から聞こえる風の音が大きい。のことに気を取られて気づかなかった。

「歩夢ー、連絡なんやって?」

卓が眠そうな目を擦りながら、だるそうに尋ねてきた。

「あ、今日天気悪いから練習出来ないって」

俺がそう答えると、卓は再びベッドに横になり、

「あー……ならもうちょい寝るわー……おやすみー……」

と、布団を頭から被ってしまった。

ーーっておい、また寝るのかよ。昨日のことそろそろ聞きたいんだけど。

起こしたい衝動に激しく駆られたが、体が資本の俺たちなので、睡眠を欲している卓を俺の個人的な事情で起こすわけにはもちろんいかない。

仕方がないので、俺は1人部屋から出て、選手村の施設内にあるマッサージを受けたり、昨日行ったトレーニングルームで汗を流したりして、しばらく過ごした。

食堂やカフェの横を通り過ぎた時、と一緒に過ごしたいな、と思ったけど。今のこの状況では誘えるわけがない。ーー自業自得。

そういえば、の姿を今日は見ない。いつもは必然的にハーフパイプの会場での練習で会うのだけれど、今日はそれもない。

ーー何をしているのだろう。まさかまた羽生くんのところに……。

と、俺の頭に不安がよぎり、なんとなく数時間ぶりにスマホの画面を見ると。

卓からの着信が数件。いつのまにか、すでに時刻は午後2時を回っていた。さすがに目が覚めて昨日の件を話してくれるのだろうか。

俺は慌てて卓に電話をかけ直す。ーーすると。

『 歩夢! どこ行ってんや! ほんまは昨日の夜話したかったのに!』

「いや、俺も聞きたかったんだけど昨日の夜も今朝も卓寝てるし……」

『なんや! 起こせばええやんけ! のことやで! ほんまに恋愛には消極的やな!』

起こしてよかったのかよ。気を遣ったのになぜか怒られる俺。

「……そう言われても」

『まあええわ! とにかく大変なんやって! 昨日偶然羽生くんとが一緒に話しとんの聞ぃたんやけど! 』

「え?」

『なんか、羽生くんのこと専属で雇おうとしてんや! 歩夢のマネージャー辞めさせて! 』

「ーーは?」

なんだ、それ。が俺のマネージャーを辞めて、羽生くんの?

『そのあのと話したんやけど、上の空やった! 、もしかして…… 』

「……卓、ありがとう」

『 はよなんとかせぇ!』

「とりあえずを探すわ」

そう言うと俺は電話を切る。そしてに急いで電話をするがーー出ない。2回、3回とかけ直しても、やはり繋がらず。

の部屋へ急いで行き、部屋の呼び鈴を押す。しかしやはり出ない。

ーーどこに行った、

冷や汗が湧き出でくる。かつてないほどの焦燥感。すでにが俺の元を離れて行ってしまったような気さえして、気が気じゃなくなる。

選手村内を小走りで回る。途中で通行人に睨まれつつも、他人を気にしている余裕などなかった。カフェ、食堂、美容院、ネイルサロン……が行きそうなところをしらみつぶしに回るけれど、見つからない。

ーーどこなんだ。もう行ってしまったのか?

駄目元で、再びの部屋へ戻ってみることにした。ーーすると。

………いた。

どこかから戻ってきたらしいが、自分の部屋のドアを開けて部屋へ入るところに、ちょうど俺は出くわした。

俺はに駆け寄る。「あ、歩夢くん!?」と、キスの件が尾を引いているらしいな身構えたが、そんなことに構う余裕などなかった。

俺はの手首を掴み、そのまま引っ張って、半ば強引に自分の部屋へ連れ込んだ。この前は勢いで廊下でキスをしてしまったけれど、よく誰かに見つからなかったなあと思う。

ーーそして。

「あ、歩夢くん! な、なに!?」

戸惑うを部屋の中まで引っ張り込むと、俺はそのままベッドの上に押し倒した。ーー幸い卓は部屋にはいなかった。

「な、なんなの……!?」

少し怯えたようには言った。俺は無意識のうちに、彼女の両手首を掴んで、身動きを取れないようにしていた。ーーどこかに行ってしまわないように。

そして俺はを見下ろしながら、低い声で言う。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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