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2/10 平昌 選手村 No.3

 

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選手村の食堂は、韓国料理はもちろんのこと、日本食やイタリアン、フレンチ、中華など様々な料理がビュッフェ形式で楽しむことができ、味も美味しかった。

今日は何にしようかな、と考えると、ふと先日歩夢くんが食べていたビビンバのことを思い出す。

こればっかり食べてる、って言ってたなあ。確かに見本のビビンバを見ると、美味しそうだった。というわけで、私はビビンバを食べることにした。

その瞬間思い出されたのはーー昨日のキス。思い起こす度に、身体が火照って身悶えそうになるが、私は首を横に振って一生懸命熱を払った。

「お待たせー」

席に戻るとお兄ちゃん……じゃなくて結弦くんは、すでに食べるものを取って座っていた。あっさり目のおかずや白米が並ぶ。ヘルシーな日本食のようなメニューだった。

はビビンバにしたんだ」

「うん。これは歩夢くんが……」

尋ねられ、反射的に歩夢くんの名前が出てきてしまった。しかしまた昨日の件を鮮明に思い出しそうになり、私は言葉を止めた。

「平野くんが、何?」

「あ、いや……なんでもないよ」

「ふーん」

私がそう言うと、結弦くんは別段興味も無さそうな素振りを見せた。

そして私たちは、食事をしながら昔話に花を咲かせる。私は結弦くんより3つ年下なので、覚えてないことが多く、「そうだっけー?」「もうなんで覚えてないんだよ~」と、何回も言われてしまった。

「あ、そうだ。写真見せてよ」

食事が落ち着いた頃、結弦くんがそう言ったので、私は頷くと、持っていた一眼レフの電源を入れ、サムネイルが並んでいる画面にして手渡した。

「ありがとう。1枚1枚進めて見てもいーい?」

「うん。昨日はよく撮れたと思う! ぜひ見てほしいな」

すると結弦くんは、カメラの小さい画面を見ながら、最初は「おー、きれい」とか「構図すごいね」とか言っていたけど、そのうち何も言わなくなり、次第に真剣な表情になっていった。

「どうしたの……?」

黙ってしまったことに不安を感じ、私は問う。気に食わないことでもあったのだろうか。

するとお兄ちゃんははっとしたような顔をして、すぐに優しく微笑んだ。

「いや、ごめん。思った以上にの写真がすごくて。本当にプロなんだなって、感心して見てたんだ」

思いがけない褒め言葉に、私は嬉しくなり、そして照れる。

「い、いやー、まだまだですよ」

「そんなことないよ。ジャンプを跳んでる時の俺の写真とか、自分で言うのもなんだけど、表情も映えてて躍動感もあって、本当にきれいだ。今までここまできれいに撮ってくれた人、いない気がするよ」

「……ありがとう」

私は照れ隠しで少し俯きながらも、嬉しくてそう言った。

すると結弦くんは、いまだカメラの画面を見ながらこう言った。

「でも、平野くんの写真がすごく多いね。練習中の写真もだけど、オフショットも」

「まあ、一緒にいる時間長いからね」

「平野くん、クールであんまり表情を変えないイメージがあるんだけど。……の前だと、よく笑ったり、ふざけた表情をしたりするんだね。別人みたいだ」

「そう……?」

言われてみれば、メディアの前やボード関係者以外の人の前ではそうかもしれない。あまり話すタイプでもないし。

私にも他愛のないことを言ってきたり妙にからかってきたりするから、気を許してくれているのかも。……だからって抱きついてきたりキスしてきたりは本当に意味がわからないけれど。

あー、思い出すとまた顔に火がつきそう……。

そんなことを私が思っていると。

「付き合ってるの?」

「え?」

「平野くんと」

思いもがけないことを結弦くんに聞かれ、私は虚を突かれた。その瞬間、何故か昨日のキスの感覚がいやに鮮明に復活し、私は全力で首を振った。

「つ、付き合ってない! ないない!」

「そうなの?」

「そうです! ただの通訳兼マネージャーです!」

自分でそう言いながらも、私の脳内に疑問符が浮かんだ。ただのマネージャーってキスとかするんだろうか。ーーしないよな。

どういう関係なんだろ、私たち。

すると結弦くんは何故か安堵したかのような溜息をつきーーこう言った。

「なんだ。……よかった」

「え……?」

よかった、の意味がよくわからず、私は首を傾げる。結弦くんは私の目をじっと見つめた。穏やかな笑みを浮かべていたけれど、視線には強いものを感じる。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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