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2/10 平昌 選手村 No.1

 

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歩夢side

ーーやってしまった、とうとう。

でも苛立ちやら嫉妬やら焦りやら愛しすぎる衝動やら本能やらで、昨日の俺の理性は、全く機能しなかった。

俺の痕跡を、どうしてもに刻み込んでおきたかった。

そうでもしないと、あの人にの全てを奪いさられてしまうような気がして。





朝食会場に行くと、ビュッフェ台の近くのテーブルには、來夢とーーそして

は目の下にクマを作り、今にも生気が尽きてしまうような疲労困憊な顔で、だるそうにスプーンを握っていた。

トレイの上には、コーンスープらしきものが入ったスープ皿のみ。しかし皿の中にはまだなみなみとスープが入っている上、は全くスプーンを動かす気配はなかった。

眠れなかったんだろうな。ーー俺のせいで。

俺の方はというと、精神のコントロールには慣れているし、昔からタフで寝たい時には寝れる体質なので、睡眠事情の方は全く問題なしだが。

朝食を取ろうと、ビュッフェ台に並ぶ。俺もさすがに食欲はそこまで湧かないけど、練習があるからエネルギーは補給しなきゃない。

適当に栄養価の高そうなものを取っていると、來夢との会話が耳に入ってきた。

ちゃん、どした? 元気ないね」

「ああ、ちょっとね……まあ、大丈夫……」

來夢の心配そうな声に、は掠れた声で答えた。

「え、大丈夫そうじゃないけと……具合悪いの?」

「いや、そういうわけでは……ちょっと私には刺激が強すぎて……」

來夢にとってはわけのわからない回答をする。ーー強かったのか。幾分か満たされる、俺の支配欲。執着しすぎたろ、俺。

「刺激……?」

怪訝そうな來夢の声。はしばらく何も言わなかったが、しばらくしてからこんな言葉が聞こえてきた。

「……來夢くん」

「なーに?」

「あのさ、寂しいから抱きついたり……キスしたりするのって、どう思う?」

「……………………………ふぁっ!?」

來夢が素っ頓狂な声を上げた。そしてしばらくの間、二人の会話が止まる。

俺には來夢が考えていることが手に取るようにわかった。

ーーえ!? それってどういう意味!? ちゃん寂しいの!? そして寂しいから抱きついたりキスしたりしたいの!? それを俺に言うってことは!? 俺に抱きついてキスしたいの!? ちゃんってそういうのフリーダムなの!? 恋人同士じゃなくてもそういうのできちゃう人!? 意外……! で、でも俺はそんなちゃんも好きだ! 俺ならいつでも準備OKだよ!!

なーんてことを思っているのだろう。

朝食をほぼ取り終えた俺は、2人の様子が気になってちらり、と2人の方を向いた。ーーすると。

はたり、と偶然と目が合ってしまった。しばらくの合間、は少し口を開けて、目を見開いて驚いたように俺を見ていた。

が、しばらくすると、だんだんと顔が赤らんでいき、あっという間にの顔はトマトのような色になった。

ーーまずいな。このままでは避けられてしまうかも。何か言わなきゃ。

しかし、何を。

俺がそう悩んでいると。

がたん、とは立ち上がり、ほとんど手をつけてないコーンスープが載ったトレイを持つと、俺の横を足早に通り過ぎながら、

「ああああ歩夢くん! それじゃあとで! 練習で!」

と早口で言って、返却口にトレイを返し、ぎこちない早歩きをしながら食堂から出て行ってしまった。

ーーまあ、そりゃあ逃げるよな。からしたら意味不明だろうし、どんな顔をすればいいのかもわからないだろう。

俺は深く嘆息をした。ついさっきまで、が座っていた側の來夢の隣には、いつの間にか優斗が座っていた。食後の飲み物を取りに行っていたらしく、暖かいお茶をすすっている。

ーーすると、來夢がやたらキリッとした顔を作って、優斗の方を向いてこう言った。どうやらがいなくなったことに気づいていないらしい。

「……ちゃん。俺はそういう恋愛の形もいいと思うよ。恋愛にルールなんてない、自由だよ。俺はちゃんの全てを受け入れる。だから」

さんならとっくにどっか行ったすよ」

來夢の言葉の途中で、優斗が呆れ気味に指摘すると、

「……あれ?」

來夢は目を点にして首をかしげた。

そんな2人のやり取りを見つつ、箸や手拭きを取りに行こうとトレイを持ったまま歩くと、今度は卓が両手を頭の後ろで組みながら、やおらやってきた。

「なんか、今すごい速さでがこっから出て行ったのとすれ違ったんやけど」

「……ふーん」

「顔真っ赤やったわ。……歩夢なんかしたやろ」

俺は箸と手拭きを確保すると、卓にしか聞こえないような小声でこう言った。

「……別に。昨日すげえキスしちゃっただけ。無理やり」

すると卓は目をしばたたかせてから、眉をひそめてこう尋ねた。

「なんや、その……すげえって、結構濃厚なやつ?」

「……まあ、かなり」

「…………」

卓はしばらく沈黙してから、こう言った。

「もうそこまで行ったらちゃんと言って自分の女にしたらええんちゃうの。積極的なのか消極的なのかわからへん」

「………そだね」

俺が人事のように答えると、卓はそれ以上何も言わなかった。

俺だってわからない。の気持ちも、どうしたらいいのかも。

もし自分の素直な気持ちを言って、が俺の元から去ったら、こんなに彼女にのめり込んでしまっている自分が、一体どうなってしまうのかだって、わからない。

だからこのまま通訳兼マネージャーでいてくれるだけで、当面はよかったのに。

でも、このままでは羽生くんにを取られてしまうかもしれない。ーーでも、が俺を男として好意を抱いているかどうかなんて、全然見当もつかないから、なかなか一歩踏み出すことが出来ない。情けない堂々巡り。なんて臆病なのだろう。

本当にわからない、何もかも。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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