2/9 平昌 フィギュアスケート会場
- 2018/04/26
- 09:31
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フィギュアスケートの会場のカメラマンが撮影するエリアーーの隅の隅のそれも背の高いカメラマンがいる後ろで、わたしは溜息をつく。
フィギュアスケートの練習風景の撮影がしたくて、ハーフパイプの練習が終わってから急いで会場に駆けつけた私。
今日はフィギュアの練習が終わる前になんとか辿り着くことはできたのだけれど、撮影エリアには、すでに多くのカメラマンが陣取っていた。
きっと彼らは練習の前から待機していて、スケーターが美しく撮れる位置を確保しているのだろう。練習途中に現れた私がいい場所を撮れないのは、無理もない話だ。
少しでもいいショットを撮ろうと、私は撮影エリアの隅から手を伸ばしてシャッターを押すが、もちろん満足する出来のものは撮れなかった。
はあ、せっかくゆづお兄ちゃんが練習しているというのに。
と、私が1人落胆していると。
ゆづお兄ちゃんがちょうど撮影エリアの前を通り過ぎる際、、ちらりとこちらを見た。偶然、一瞬目が合った。
するとお兄ちゃんは、スローな滑りになってターンし、私の眼前のカメラマンの前で、止まった。
「! 来てくれたの?」
お兄ちゃんがそう言うと、私は背伸びをして前の人の顔の横から、顔を出す。
すると、さすがに羽生結弦が声をかけた私に気を遣ってくれたのか、前の男性が少し私に場所を作ってくれた。
私は少し前に出られて、お兄ちゃんと会話がしやすくなった。
「うん。ゆづお兄ちゃんの写真撮りたくて」
「嬉しい! ありがとう、」
お兄ちゃんは優しく微笑んだ。ーー懐かしい、優しい笑み。私にフィギュアスケートを教えてくれた、あの頃と同じ。
それが今や世界一のスケーターだなんて。
「あとで見せてよ、が撮った写真」
「あー……見せたいところなんだけど、カメラマンがいっぱいいて、いい場所から撮れなくて……。見せられるようなものはないなあ」
「そうなの? ……あ! ちょっと待って」
すると、お兄ちゃんは私から離れて、撮影エリアの近くで待機する係員に何やら耳打ちをした。係員は、カメラマンの中に不審人物がいないかどうかや、マナー違反の行いがないかどうかを監視している役目だったと思うけど。
話終えると、お兄ちゃんは私の近くへ滑り戻ってきた。そしてスケート靴を履いたまま、リンクから出ると、撮影エリアに入り私の横にやってきた。
ーーそして。
「行こう」
「ーーえ?」
お兄ちゃんが私の手を取る。私は引っ張られるような形で、彼のあとに続いた。
彼が連れて行ってくれたのは、撮影エリアではないーーコーチやサポートメンバーしか入れない、リンクの外のエリア。
ゆづお兄ちゃんの関係者らしき外国人の女性が、私に向かってが「Hi!」と手を降った。
「ゆづお兄ちゃん、ここは……」
「ここならきれいに写真撮れるでしょ?」
お兄ちゃんは、優美な微笑みを私に向ける。
「え、でもいいの? ここ、私なんかが入って」
「大丈夫だよ。ーーだって」
するとお兄ちゃんは、さらに笑みを深く刻んだ。
「あの子は俺にとって特別な人なんです、って説明したから」
ーー氷上のプリンスとか、リアル王子とか、お兄ちゃんはメディアで謳われている。
本当に、王子様みたいだ。
「あ、あのありがとう」
なんだか照れてしまう。ゆづお兄ちゃんが、大人の素敵な男性になっていることを、私は今初めて認識した。
子供の頃は、なんにも気にせずに遊んでいたけれど。もうあの頃との関係とは、少し違っている気がした。
「どういたしましてー。写真、楽しみにしてるね」
「うん!」
私がそう返事をすると、お兄ちゃんは手を振りながらリンクへ戻り、練習を再開した。4回転サルコウ、トリプルアクセルなど、次々に美しく決める。
私は夢中でシャッターを切る。先程の撮影エリアで撮ったものとは、比較にならないほどの出来のいい写真になるはずだ。
私はお兄ちゃんの練習が終わるまで、彼の美しく舞う瞬間を逃すまいと、目を光らせながら撮影をし続けた。
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