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2/8 平昌 選手村 No.4

 

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歩夢side

本番用のパイプでの初練習が終わり、卓や來夢、優斗と一緒に選手村へ戻ってきた俺。

はマネージャー業の細かい仕事を行うため、先に選手村に戻っているはず。時間があれば、ほかの競技の撮影に行くとも言っていた気がする。

どこか行ったのかな、と思いながら歩いていると。

「あれ、やんけ」

卓が指をさしたその方向には。

廊下の曲がり角でが尻もちをついていた。どうやら誰かにぶつかったらしいが、相手の人物の姿は一部しか見えず、誰かはわからない。

ちゃーん! 大丈夫!?」

來夢が走り出したので、俺は早歩きであとに続く。

すると、はぶつかった人物を見上げていた。驚いたような顔をしながら。そしてその瞳には、今まで俺が見たことのないような親愛の念が込められていたような気がして、俺はもやっとした。

「ゆづ……お兄ちゃん」

そしては、感極まったような声でそう言ったのだ。ーーゆづ? まさか。

俺はがぶつかった人物に視線を合わせる。ゆづ、という響きである程度予想はしたが、やはりその通りだった。

そこにいたのは、羽生結弦。ソチ五輪の金メダリストで、日本の男性アスリートの中ではナンバーワンの人気を誇ると言っても過言ではない、フィギュアスケーターだった。

「お、お兄ちゃんって!? どういうこと!?」

來夢が、驚きの声をあげる。すると羽生くんに手をひかれて立ち上がったが、はっとしたような顔をした。

「あれ!? 來夢くん! 歩夢くんたちも!」

俺たちの存在に気づく。その瞬間、羽生くんの手を離したことに、俺は少しだけほっとする。

「羽生さんってさんのお兄さんなんですか?」

優斗が問うと、は手の平を顔の前で振りながら、笑ってこう言った。

「いやいやー、実のお兄ちゃんじゃないよ。その、小さい頃に……まあ、話せば長くなるんだけど」

「そんな前から羽生くんと知り合いだったの!? すげえ、言ってよー!」

來夢が興奮気味に言うと、名前はバツの悪そうな顔をした。

「いやー、ちょっと忘れてて……」

「そないなことあるんか」

今朝、朝食の時にが「羽生結弦」という名前に妙な反応をしていたことを思い出した。懐かしいような、と言っていた気がする。相当前の知り合いなのかもしれない。

「ねえ、みんなこのあと少し時間ある?」

すると羽生くんは、テレビで見たのと同じ、爽やかな笑顔を俺たちに向けてそう言った。

「私は……フィギュアの練習の撮影がしたかったんだけど、ゆづお兄ちゃんがここにいるってことはもう終わったみたいだし、時間ある」

「俺達も練習終わったしあるっちゃあるわ」

と卓がそう言うと、羽生くんはさらに笑みを濃くする。

「それじゃ、ここで立ち話もなんだからさ。ちょっとカフェで話そうよ」

「おー、いいねー。寒かったし温かいもん飲みたいわ」

羽生の提案に來夢が同意する。や卓、優斗も頷いていたのが見えた。

「平野くんもいい?」

先程から無反応の俺に向かって彼は尋ねる。

羽生くんとは、4年前のソチ五輪の時から、たまに交流がある。メダリストが集まるイベントやオリンピック協会主催の合宿などで、一緒になって話す機会が何度もあった。

アスリートとしても、人間としてもかなり尊敬出来る人物だ。4年前、まだ中学生だった俺に対して、優しくいろいろ教えてくれた記憶もある。

ーーだが。

「……いいよ」

俺は低い声でそう言った。

羽生くんを見るの、嬉しさと情愛を感じる瞳。俺が知る由もない、遥か昔のを知っている羽生くん。

心の中のもやもやが、どんどん膨らんでいく。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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