記事一覧

2/7 羽田空港→金浦空港

 

Your name






歩夢side

「わー!席広ーい! さすがアシアナ航空!」

飛行機に搭乗し、自分らが座る席周辺に辿り着くなり、はその大きな瞳を輝かせた。

「えー? つってもエコノミーやん」

卓の言う通り、俺たちの席はビジネスでもなければ、当然ファーストでもない。最も安価な席のエコノミークラスだ。

選手とはいえ、オリンピック協会が用意するのは慣例的にエコノミーなのだ。

自腹を切ってクラスをあげる選手も多いようだが、ソウルまでは2時間半くらいで到着してしまうし、そもそも俺たちはエコノミーに慣れているので、用意された席にありがたく座ることにしたんだ。

「あー、私いっつも格安航空だからね〜。席狭いんだよー、ご飯も申し訳程度しか出ないし」

は苦笑を浮かべながら席に座り、そう言った。するとの後ろの座席の優斗が、前に身を乗り出して悲しそうな顔をすると、

さん、貧乏なんっすか……?」

と、尋ねる。するとは大げさに首を振った。

「いやいや! 今はその、ほら。歩夢くんが、生活に困らないくらいの給料にしてくれてるんだけど」

「今はってことは、昔は金コマやったの?」

「……まあ、そうだ、ね……」

そういえば出会った時も1円もお金持ってなかったよな……。あれはハプニングだったようだが。

「だから選手村も楽しみー! いい部屋なんだろうなー」

うきうきしながらは言う。俺の正式なスタッフとなったは、俺たちと一緒に選手村の施設に宿泊することになっている。

ちゃん、泊まるところも今まで酷いとこだったの……?」

今度は優斗の隣の席の來夢が恐る恐る尋ねる。

「まあできるだけ安いところを探すよね。っていうか、ホテルに泊まれればいい方だよ」

「へっ?それどういうことなん?」

「いや、野宿とか普通にしてた。安全な国ではねー」

あっさりと言う。ーーって、おい。野宿……?

「野宿!? だめでしょ!」

驚愕した來夢が声を上げるが、はよく分かっておらず目をぱちくりさせていた。

いやいや、危ないだろ。女の子なんだから。相変わらず危機意識のない子である。

「……

の隣に座る俺は、彼女の方を向き直り真剣な面持ちで見つめた。は俺のいきなりの視線に、少し驚いたように目を見開く。

そして俺はゆっくりとこう言った。

「もう野宿は禁止」

「えっ?」

「いいから。雇用主命令ね」

「あ、はい……」

強めの口調で言う俺に、はしゅんとなって頷いた。

ーー全く、本当に危なっかしいんだから。常に見張っていないと、いつでも俺の手からすり抜けてどこかへ行ってしまいそうだ。

離陸してしばらくすると、機内食を配布するキャビンアテンダントがやってきた。

「あ!歩夢くん!ご飯どうする? 魚?肉?」

テンション高めには言う。先程、格安航空では大した食事は出ないと言っていたから、期待してるのだろう。まあ、最近の機内食は確かにそれなりにおいしいが。

それにしてもいちいちかわいい反応をする。

「俺は魚」

「おっけー!」

通路側のは、キャビンアテンダントに俺の分もお願いしてくれた。はビーフにしたようだ。

そしてご機嫌な表情で食べ始める

俺はそんなにお腹がすいてなかったので、が食べている様子をしばらくちらちら見ていた。

するとがあまりにもおいしそうに食べるので、食欲が出てきた。俺ゆっくりと機内食の包を開ける。ーーしかし。

「あ、フォーク入ってない」

機内食に付属されているはずのそれが入っていない。

「あれ。入れ忘れかな? もらってくるよ」

立ち上がろうとするの機内食を見ると、すでに完食していた。

俺はあることを思いつき、の細い手首を掴んで席に座らせる。

「え?歩夢くん?」

「いや、いいよわざわざ」

「でも食べられないよ」

が使ったので、いい」

俺はが使ったフォークを取り、機内食を食べ始めた。何も気にしてないような素振りで、ごく自然に。

「あ……」

はその光景を見て、顔を赤らめたが俺はそ知らぬ顔をして食べ続けた。

は何も言わずに照れているのを隠すように明後日の方向を見ていた。

間接キスくらいで照れるのも中学生みたいだし、気にすることはないと言い聞かせているように見えた。

まあ、でもすぐに赤くなるのことだから、俺にはこうなることが予想出来たのだ。

はい、楽しんでます。本当に楽しい。

ーーと、俺がの反応を見て悦に浸っていると。

「なんや、さっきから見とるとお前ら夫婦みたいやなー」

俺たちの後ろの列の、來夢の隣の座席の卓が、俺たちの方をのぞき込んで言った。

「えっ!? なん……」

「できとんの? 二人」

慌てるのことなんて気にせずに卓がひょうひょうと尋ねる。ーーすると。

「できてぬぁぁーい!!」

「なんで來夢が答えるんや」

「來夢さんうるさいっす」

絶叫する來夢に冷静なツッコミをする卓と、迷惑そうな声を上げる優斗。

「だってできてないんだもん! ね、ちゃん!?」

「あ……はい、できてない、と思います……」

來夢の迫るような問いかけには恥ずかしそうに俯きながら応えた。

「ほらな! 言ったろ! ざまあー!」

「誰がざまあなんっすか」

優斗が呆れた声を上げる。6歳年下の高校生に引かれる來夢、恐るべし。「なんとなくだ!」「はぁ、そうっすか」と來夢と優斗は後ろで会話を続けていた。

すると卓が、俺に向かって面白そうに小声でこう言った。

「歩夢は否定せぇへんんやね」

「………」

俺は何も答えない。ーーだって、もったいなかったから。

卓にどう思われようと、俺の横で肩を強ばらせながら赤面してそっぽ向いてる生物の反応が、終わってしまうのがもったいなくて。

あー、それにしても卓には誤魔化せなさそうだな。

と、先行きが少し面倒そうだなと思う俺であった。


励みになります→ web拍手 by FC2

前のお話   次のお話

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

名前変換

 

Your name