2/7 大田区 羽田空港 国際線ターミナル No.2
- 2018/04/18
- 09:10
Your name
「そうだね。……あ、歩夢くん髪型変えたんだね」
歩きながらは俺の髪をまじまじと見て言った。
オリンピック直前ということもあり、先日俺は地元の村上の美容院で、ちょっときつめのツイストパーマをあててきたのだ。
「……変かな?」
「ううん! 似合ってるよー、あとそのスーツ新鮮! いつも歩夢くんラフな格好だから。そういうのもかっこいいね」
じっと俺を見ては言う。
ーーはあ、もうなんなのこの人。
行動や仕草のすべてが、いちいち俺の触覚を刺激する。
そういう目向けるの、俺だけにしてくんないかな。雇用主権限として命令できないかなあ。ーー無理か。
なんてくだらないことを思っているうちに、俺たちが搭乗する便の手続きカウンターにたどり着いた。
ーーするとそこには。
「歩夢! ちゃーん!」
ロビーのソファに座っていた來夢が俺たちの姿を見つけて、嬉しそうにぶんぶんと大きく手を振った。傍らには、卓と優斗もいる。俺がを探している間に、みんな到着していたようだった。
「おー歩夢ー」
「歩夢さん、お久しぶりっす」
彼らのところまで歩み寄ると、卓こと平岡卓と、優斗こと戸塚優斗が、俺に向かって挨拶をする。俺は「おー」と軽くそれに応えた。 二人とも俺と同じハーフパイプのオリンピック代表で、卓は前大会の銅メダリスト。高校生の優斗は初出場だ。
「歩夢、その子は?」
すると卓がの姿を見て、不思議そうに尋ねてきた。
あ、そういえば2人にはなんも説明してなかったんだった。
「あー、俺の新しい通訳兼マネージャー」
俺が紹介すると、は少しかしこまって、2人に向けて笑顔で話し出した。
「初めまして。歩夢くんのマネージャーやることになったです。よろしくね。えーと……確か……平岡卓くんと戸塚優斗くん?」
事前に2人のことを覚えてきたらしいが、少し不安げには言った。しかし、卓と優斗は二人とも親しみやすい笑みを浮かべた。
「おー、よろしくなー!」
「優斗です、よろしくお願いします」
俺の横にいたは安堵したように小さく息をついた。まあ、二人とも気のいいやつなので、ならうまくやって行けるだろう。
そしては、「ちゃーん!ちょっと久しぶり!」と呼ぶ來夢と、「調子どうー?」とか言いながら会話を始めてしまった。
すると卓が俺と優斗にしか聞こえないような声で、少しにやつきながらこう言ってきた。
「なんや、すごくかわいい子やんか歩夢。やるやんけ」
「……はぁ?」
俺が眉をひそめると、卓が意外そうに目を見開いた。
「え?歩夢の新しい女とちゃうん? マネージャーなんて建前やろ」
なんか勘違いしてる。
まあ、本当はそう言いたいところだけど残念ながらそうじゃない。
「そんなんじゃないから。本当にただのマネージャーだし」
「なんやー、つまらへん」
本当につまらなそうにする卓。ーーあー、卓は友基みたいなタイプなのか。めんどくさい。
そして優斗はというと、來夢と話すをぼーっと見ながら、
「きれいな人っすね……」
なんて言い出す。
ーーおいおい、やめてくれよ。
「なんや、優斗。年上好きなのか?」
「や、そんなんじゃないっすけど」
「やめとき。歩夢のオキニやろ」
いまだに勘違いしてる……というか、もしかしたら勘の鋭い卓は何かに勘づいているのかもしれない。
全く、五輪には友基がいないかと思ってこっち方面では気は抜いていたのに、卓がこうだとすると少しめんどくさい。
「だから、違うってば」
だけど今の俺は、平静ぶって面倒そうに卓にそう言うしかなかった。
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