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1/28 コロラド州 アスペン Xゲーム会場 No.5

 

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歩夢side

ーーできた。成功した。

喜びよりも、安堵感の方が大きかった気がする。

4回転を連続で完璧に成功させることができた。無傷の状態で、達成することができた。

これで……オリンピックでも、勝てるレベルで戦える。

オリンピックの表彰台の1番上。やっと登る方法を、手に入れた気がした。

競技を終えて選手が点数待ちをするゾーンに俺が立っていると、点数が表示された直後に、1人の影が走り寄ってきた。

ーーだった。

パイプの頂上にさっきまではいたはず。リップラインを走ってきたのだろうか、肩でぜーぜー息をしている。

そして目を見開いて、血走った目で俺を見ていた。

ただならぬ雰囲気をから感じで、俺はたじろいだ。

「あの……」

そしてが息もたえたえに、何かを言おうとした。ーーしかし。

俺の横に英語でのインタビューアがいつの間にやら立っていた。俺にマイクを向けながら、英語で今日の結果について質問してくる。

俺は英語はそれなりにできるけど、インタビューに関しては少しでもニュアンスが違って伝わってしまうのが嫌なので、必ず通訳を通して受け答えをしていた。

に通訳をお願いしなくては。

「あ、……」

するとははっとしたような顔をして、インタビューアの顔を見た。何に必死だったか分からないが、本来の自分の仕事を思い出したようだった。

「どういう…感想ですか、今」

いまだに少し息を切らしながら、が翻訳した内容を俺に伝える。なんだかに直接聞かれているようで、少し嬉しかった。

「いやー、でも狙って、これをやろうと思った、思ってこっち来たから」

競技を終えたばかりの俺も、まだ少し呼吸が荒い。少し途切れ途切れになりながら答える。

「クリーンにできて、初めて大会でも決めれたって言うのが1番」

俺がそこまで言い終わると、は早口の英語でインタビューアに内容を伝えた。それを聞くと、インタビューアは満足げに去っていった。

ーーすると。

「……?」

いきなりが俺に抱きついてきた。俺は一瞬戸惑うが、そっと腕を回し、の背中をぽんぽんと叩く。

眼前にある、の顔を見るとぎゅっと目をつぶっていた。瞼の端にはうっすらと浮かぶ涙。感極まって、出てしまったのだろうか。

ーーなんでの方が喜んでんの。

俺は自然と自分の顔が綻んだのがわかった。

そしてしばらくしてが離れると、俺の顔を真っ直ぐと見つめてきた。ーーいつものだ。

初めて空港で出会った時から、惹き付けられてやまないの澄んだ双眸。俺の気などお構い無しに、容赦なく重ねてくる、直情的とも言えるその視線。

ーー本人は無意識なのだろう。何も考えずに男にこんな視線を浴びせるなんて、なんて恐ろしい子なのだろう。こんなんある種の男は一発でノックアウトだ。

だけど俺は、この子を明日で忘れなきゃない。残酷な運命を呪いながら、俺にはそれを受け入れる準備は出来ていた。

ーーしかし。

「ーー歩夢くん。お願いがある」

「え……?」

は先程の視線を俺に向けながら、ゆっくりと言った。もう息切れの方は落ち着いてきていたようだった。

そして瞳により1層輝きを刻み、こう続けた。

「私は、歩夢くんを撮りたい」

何を言っているか一瞬分からず、俺は黙る。

「……命懸けで、生命を削って、空を飛んでいる歩夢くんを撮りたい。今日はうまく撮れなかったけれど……どうしても私の手で撮りたい。史上最高の1枚を、絶対に撮りたいーーだって」

は俺から目を逸らさずに、こう続けた。

「私が今までに見たどんな景色よりも。今までに撮影したどんな写真よりも。ーー歩夢くんの今日の姿は、最高に美しかったから。私が今までずっと撮りたかった景色は、歩夢くんが作り出す景色だったんだって、さっきわかった」

まっすぐな視線を浴びせられながらそんなことを言われ、俺の内側が一気に沸騰するように熱くなった。

なんて殺し文句なのだろう。反則……を通り越して、永久追放レベルだ。

ーー最高に美しかったから。

の言葉を俺は心に深く刻み込む。メモリーの1番上に来るように。常に俺の礎となるように。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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