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1/28 コロラド州 アスペン Xゲーム会場 No.1

 

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大会が始まる頃は、すでに日が落ちかけていて、辺りは薄暗かった。

スーパーパイプの競技は、慣例的に夜に行われるらしい。

氷点下マイナス7度。先程、得点が出るスコアボードの端に表示されていた、ここバターミルク山の気温だ。

もちろん極寒の寒さでも耐えられるような防寒着を私は着ているが、それでも頬に時々当たる風は刺すように痛い。

(こんな中、やるんだ……)

改めてスノーボードという競技が、己や対戦相手だけではなく、自然も相手ということを私は実感する。

歩夢くんの予選一本目のRUNが始まる。私はパイプの終わりの関係者のみが入れるエリアの、RUNを終えた選手がとどまる付近に、友基くんと混ざって競技を見ていた。

一週間以上も、歩夢くんの練習を見ていれば、自然と知識は身についた。

今では遠目で見ても、選手の繰り出した技が、なんという名前の何回転の技なのかを判別できるレベルにまでなった。

歩夢くんがグーフィースタンスでドロップインをした。私は息を飲む。

ーー練習の時と、全然違う。

最初はバックサイドインディエアー。誰よりも、美しく高く、ふんわりと彼は飛ぶ。

『“ああ、あの高さはあいつだ ”って思わせるように、一番最初は高く飛ぶことにしてるんだ。』

歩夢くんはそう言っていた。確かに、ほかの選手と比べても数段高く見えた。

そこからのフロントサイドダブルコーク1440。ーー完璧だ。あまりにもスムーズに回転し、余裕を持って着地するので、これが本当に最高難易度の技なのかと一瞬疑ってしまう。

私は持っていたカメラのシャッターを切ったが、彼を追うのに必死で、うまく撮れた気がしなかった。

そしてキャブダブルコーク1080、フロントサイドダブルコーク1260……と次々に難易度の高い技を決めていく。

6つの技をメイクすると、歩夢くんはドロップアウトして、観客席に雪をかけるように、ボードを止めた。彼は小さな顔を覆っていたゴーグルを額に上げて、得点が表示されるボードを眺める。

ーーその表情は無表情で、全ての技を難なく完璧に決めたにも関わらず、喜びなどは特に見受けられなかった。

対照的に、観客は湧いていた。小さな少年が魅せた神業とも言えるRUNに。

私が普段の練習で見ていた時も、同じ技を何度と見た。ーーしかし。

あんな風に、1回のRUNに難易度の高い技を詰めこんだのを見たのは初めてだったので、歩夢くんの圧倒的な実力に心を震わされていた。

「……あんなにすごいんだ」

私は思わず呟く。すると友基くんは、いつもの穏やかな調子で、しかしどこか誇らしげにこう答えた。

「いつも通りだよ。……でも本人は満足してないね、あれじゃ」

私は思わず絶句する。他の選手と比べても圧倒的に高く、美しいRUNだったというのに。

歩夢くんはどこまで高いところを目指しているのだろう。

スコアボードに得点が表示される。93点。現時点では断トツトップ。周囲から歓声がこだまし、耳が痛くなる。

しかし当の歩夢くんはというと。

ーーまあこんなもんか。

……と、でも言いたげな、至って平静な面持ちで私たちの近くまで歩み寄ってきた。

「お疲れ~」

「ん」

友基くんがいつものひょうひょうとした口調で言うと、歩夢くんもやはりいつもと同じように、淡々と短く返事をする。

しかし初めて競技中の歩夢くんの、想像よりも遥かに上のRUNを見た私は呆然と彼を見ていた。

「ん? どうしたの

そんな様子に気づいた歩夢くんは、首をかしげた。

「……すごすぎて、なんか、もう……」

私は途切れ途切れにやっとそう言った。すると歩夢くんは一瞬驚いたような顔をすると、次の瞬間には表情を緩ませた。

「嬉しいね。そう言ってもらえると」

「でももっと狙ってるでしょ?」

「うん。ほんとはもっと攻めたかったんだけど。最後のあたり息苦しくなってさ。抑え目に行ったわ」

私にとってはとんでもないことを至極当然のように言う。しかし友基くんは「そうだろうねー」とのんびりと言うので、やっぱり彼にとっては当たり前なのだろう。

「いやー……もう、すごいっす。来てよかったです。ありがとうございます」

圧倒されすぎてわけがわからなくなり、変なことを言ってしまう私。でも本当に、こんな素晴らしいものを見せてくれて心から感謝していた。

ーー私が今までに全く知らなかった世界だった。

すると歩夢くんと友基くんは顔を見合わせて破顔した。

「あははー、何それー!」

「今さらだよね」

「だって! ほんとに想像以上だったんだもんー! すごく、かっこよかったんだよー!」

笑われて少しむっとしながら私は言う。すると友基くんは相変わらず笑っていたが、歩夢くんは真剣な面持ちになり、私の方をじっと見た。

私はちょっとたじろぎながらも、歩夢くんを見つめ返す。

「もっとすごいの、見せてやるわ」

言うと、歩夢くんは口元を不敵な笑の形に歪めて、私に背を向けて行ってしまった。

ーーこれ以上のRUNなんて、想像出来ない。

私は2本目と3本目に、無重力状態で飛ぶ歩夢く

を思い浮かべたけれど、私の想像力では一本目よりすごい姿をどうしても頭の中で描くことはできなかったんだ。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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