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1/28 コロラド州 アスペン コテージ1

 

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ーー何が私をこんなに切なくさせているのだろう。



とうとう歩夢くんと來夢くんが出場する、Xゲームスーパーパイプ競技の日となった。

現在、私たちは競技会場に向かう前の個々の準備をしているところ。みんなの用意が整い次第、コテージから出発する。

そして大会を終えた明日は、全員日本に帰国する予定だ。

ーー私が歩夢くんたちと過ごすのも、それで終わり。

私は競技会場に持っていくものは主にカメラ以外何も無かったので、明日の帰国のために、軽く荷物の整理をしていた。

「あ。これ返すの忘れてた」

歩夢くんから借りたパーカーが、荷物の中から出てきた。NIKEの黒いパーカーで、私には少しオーバーサイズのもの。

帰国する前に返さなくては。だってもう会うことはないのだから。

「……そうだった」

いろんなことがありすぎて、馬鹿みたいだけど、私はこの時初めて気づいたのだ。

歩夢くんと今後こんな風に一緒に過ごすことは、きっともうない。

もともと住む世界が違うし、私も歩夢くんも大人しく1箇所に留まっているような人種じゃない。

常に、お互いこの広い世界のどこかで、自分のいちばん大切なことをしている。

今思えば、アスペンの空港にたまたま同じ日にいて、隣同士の椅子に座って、お互いにトラブルで疲れていて、そんな中話したことは類希な奇跡だったのだ。

明日別れた後も、連絡しあって示し合わせれば、お互い忙しい合間を縫って会うことはもちろん可能だ。

ーーでも、なんか違う。

明日で出会ってから10日になる。ーーたまたま助けてくれた男の子が世界一のスノーボーダーで、彼のRUNに衝撃を受けて、來夢くんや友基くん、スコッティとも親しくなって……怖い目にもあったけれど、やっぱり助けてくれて。

濃密な10日間だった。たった10日間の、奇跡。

今後、約束を取り付けて歩夢くんと少しの時間会ったとしても、こんなに濃い時間は、きっと過ごせない。

「………」

なんでこんなに寂しさを感じるのだろう。世界を旅している私には、別れなんて慣れているはずなのに。

こんなに切なくて、名残おしい感情は、初めてだった。

ーー冗談だよ。

そう言ったときの、歩夢くんの瞳に翳りがあったのを思い出す。ーーそれと同時に。

ーーなんなら、今からする?

その直前にあった出来事を思い出し、心臓の鼓動が早まり、体が熱くなって身悶えしそうになる。

「……タチが悪いわ」

彼はきっと女の子には不自由してないだろうから、きっとあんなジョーク日常茶飯事なのだろう。

ーーでも男性なれしていない私にとっては。

冗談にしちゃー、ちょっと悪質なんだよなあ。



私が荷物の整理を終えると、歩夢くんはリビングのソファに座っていた。

傍らには、今日競技で使うはずのボード。準備完了らしく、あとは來夢くんと友基くん待ちか。

「頑張ってね、歩夢くん」

昨日の朝彼のよくわかんない冗談に私は戸惑ったけれど、そのあと彼があまりにも普通なので、表面的には気にしてない素振りで、自然にしていた。

まあ相変わらずちょいちょい面白がってからかってくるのだが。

「ん、かましてくる」

歩夢くんは座ったまま、いつもの彼らしい並のテンションでーーしかしどこか自信ありげに言った。

落ち着いているように見えるけど、少し興奮しているような、わくわくしているような、そんな感情を彼から感じた。大事な大会当日だから、気分が高揚しているのだろう。

「あ、そういえばさ」

「ん?」

「借りてたパーカー。試合終わったら返すね。ありがとう」

すると歩夢くんは少し黙ってからこう言った。

「あー。貸してたね、そういえば」

「うん。ほんとに助かったわー」

「あげるよ、あれ」

「ーーえ?」

「俺似たようなの持ってるし。よかったらもらって」

「いいの?」

「うん。ーーそれにさ」

すると歩夢くんはちょっと楽しそうに……どこか意地悪に笑う。私は昨日の朝のことを思い出して、息が止まりそうになった。

「今度俺のことを思い出して寂しくなったら、着ればいいんじゃない?」

ーーなーんて、からかうように言うもんだから。

「はぁーー!? な、なにそれ!」

「いや、 が俺がいなくて寂しがるかな~って」

「そ、そんなことあるか!」

「そう? 俺は寂しいけど」

大して寂しくなさそうに、やはり私をおちょくるように言う。しかしいきなりそんなことを言われたから、私は一瞬黙ってしまう。

「ま、またそんなこと言って! みんなに言ってるんでしょ!」

私は照れながらも、必死でそう言った。深く考えてはダメだ。

どうせ明日にはお別れなのだから。

すると歩夢くんは、立ち上がって歩き出し、私のすぐ隣まで来ると、笑みを崩して、真剣な面持ちで私をじっと見据えた。至近距離で綺麗な瞳で視線を重ねられ、私は硬直する。

「ーー言ってないけど」

「……え」

歩夢くんは固まっている私の頬に手を添えて、さらにこう言った。

「他の子にそんなこと、言わない。言ったこともない」

ーー一瞬で私の体が熱くなる。私の頬の熱が歩夢くんの手に伝わってそうで、それが心底恥ずかしい。

私は何を言ったらいいのかわからず、動く事も出来す、歩夢くんの瞳をぼーっと見返すことしかできなかった。

ーーすると。

「歩夢ーー! 待たせたなー!」

來夢くんのそんな声がリビングに響いたので、私ははっとして慌てて歩夢くんから離れた。荷物を運んでいた來夢くんは、私たちの状況を見ていなかったようだ。

ーーうわー。もうなんだよー、よくわかんない。

「ら、來夢くん!」

「ん? なーに ちゃん」

「一緒に先行こ!」

私は來夢くんの手を取りコテージの出入り口へ向かって歩みを進める。歩夢くんの方は見ずに。

「えっ……!? まあ、いいけど……っていうか、俺も一緒に行きたいです! ずっと手繋いでください!」

來夢くんは困惑しながらも、私についてきてれた。そしてそのまま2人でコテージから出る。

ーーもう、面白がってからかわないでよね!

まあ、私もうまく受け流せばいいのだろうけど。

でもあんな綺麗な目で、じっと視線を重ねられたら、そんなこと無理だ。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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