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1/26 コロラド州 アスペン 林中 No,5

 

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歩夢side

「……ごめんね」

「何が?」

背中越しに弱々しい声で が言うので、俺は少しだけ顔を傾けて、彼女に問う。

あの後、 は力が抜けたままで歩くとふらふらしてしまうので、俺は彼女を負ぶさってコテージに戻ることにしたのだ。

ちなみに他のみんなには、 が無事だったことは連絡済みだ。もうコテージに戻っているだろう。スコッティは自分のホテルへ帰っているかもしれない。

「明後日大会なのに。こんな迷惑かけちゃって。負担かけちゃって」

「ーー別に。これくらいなんともないよ」

それは本当だった。 を探し回った時間は30分も満たなかったし、その上でこの場所から体重の軽い を運んだところで身体的な負担など無いに等しい。

ーーというか。

背中に感じる温かく、柔らかな感触。時々鼻腔を掠める、彼女のいい匂い。

「ーーむしろ至福の瞬間だわ」

思わずぼそりと呟いてしまう。

「ーーえ?」

「いやなんでもない」

がそれに反応してきたので、俺は慌てて否定した。

「しっかし本当に危なっかしいなあ、 は」

俺は茶化すように言う。だって は気づいていないかもしれないけど、スコッティの時だってギリギリだったんだぞ。

「ーーごめん」

すると は心底申し訳なさそうに言った。そしてこう続ける。

「よく危ない目に遭うから、正直麻痺してるんだと思う」

「ーーえ。よく遭うの?」

「1人で旅してるとね。まあ日本人ってだけで舐められるし。それもこんなガキみたいな女じゃね」

は自嘲的に言う。

理解出来る部分が少しーーいや、かなりあった。

スノーボードの世界はアメリカ至上主義。俺たち日本人は、そこそこいい演技をしても嘘のように低い点数しか出ない。

認められるには、周りを圧倒させるような、こいつ、何者だ?と思わせるRUNをするしかないのだ。

「ーーねえ。どうしてさあ。そんな危ない目に遭ってまで……」

「写真を撮るのかって?」

俺が言おうとした言葉を、 は先回りして言った。

「一応ね、何度か写真で賞を貰ったことがあるんだ」

「ーーうん」

それは俺を撮影した の写真を見れば、素人目でも分かる。 にはフォトグラファーとして才能があることは間違いないだろう。

「でもね、まだまだ。全然まだ。ーー私は自分がこれだ!って思える写真が撮れてない」

「……そうなんだ」

「だからまだ全然足りない。もっと努力しないと。……命を懸けないと。そこに被写体があるなら、怖いなんて言ってられない。いつか死ぬかもしれない。ーーそれでもやるって決めた」

「………」

あまりにあっさりそんなことを言うので、俺は黙ってしまった。

「人間は息を吸わないと生きていけないようにできている。それと同じ。私は写真を撮らないと生きていけないの。最高の瞬間を永遠のものにするまでは、どんな目に遭ってもやり続ける。ーーそういう風に、私はできている」

重みのある の言葉。俺の中に彼女の強い意志が深く刻まれる。

ーーああ、もう無理だ。

に対する気持ちを誤魔化すのは。

俺はこの子のことが、どうしようもないくらい好きになってしまった。

が気になってしまう理由を、最近女の子と関わってないからだとか、今までにいないタイプだから新鮮だからとか。そういう理由をつけて、自分の気持ちを押し込めるのに必死だった。

でも無理だ。もう、溢れ出す への気持ちを、閉じ込めておくのは。

ーーだけど君は、きっと俺のものにはならない。

だって君は、そういうふうにできているから。

命に関わる怪我をしても、ほかの全てを犠牲にしても、俺が4回転に挑むことをやめられないのと同じ。

俺は、そういうふうにできている。

できれば捕まえて、閉じ込めて、どこに行くにも連れて行って。ほかの男には指一本触れさせないように。俺だけのものにしたいと思う。

でも君はそんなことを受け入れる子じゃない。そして俺は、それを受け入れてしまうような子なら、好きになっていないのだ。ーー矛盾しているけれど。

ジャンルは違うとしても、全てを捨てて、ある1つのことに命をかけている者同士として。俺は彼女に、魂の奥底から本能的に惹かれてしまったのだ。

ーーどうしてあの時。初めて空港で出会った時。俺は を連れ帰ってきてしまったのだろう。

もし、あの時別れていたら? ーーいや。

無理だ。だってきっと、俺は一目君を見た瞬間からーー。

好きだって素直に認めた瞬間に、絶対に手に入らないものだと気づく。ーーなんてこった。俺は前世でよっぽど悪いことでもしたのだろうか。

笑える。

「ーーでも、もうちょい気をつけてくれないかな」

俺は軽く笑いながら言った。

「……努力……したい。いやします」

すると は、少し緊張がほぐれたようで、ちょっとふざけてそう返した。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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