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1/20,コロラド州 アスペン空港 no4

 「Ayumu?」

 日本語じゃないイントネーションで名を呼ばれ、俺は声のした方を向いた。話に夢中で気が付かなかったが、傍らには見慣れない外国人男性が立っていた。

 どうやらスノーボード関連の記者のようだった。大方、たまたま見つけた俺に、ダメ元で何か聞き出そうとしているのだろう。

 ……少しの間忘れていたはずの疲労感が体を襲う。そう、俺は数分前に出会ったばかりの彼女と話している間は、疲れを感じていなかった。どうしてかはわからない。初対面の見知らぬ人間なのに。

 俺が無表情でそいつを見ていると、あまり聞きなれない言語で話してきた。……ドイツ語っぽいかな。

 参った。俺はドイツ語は全くわからない。いつもはドイツ語も断片的にわかるマネージャーが追い払ってくれるけど。

  っていうか、ドイツ人で記者なら英語わかるだろう普通。なんでこう、ヨーロッパのある特定の奴らは、母国語で突っ込んでくることが多いのか。

 通じることを見越して、俺は頭で英文を組み立て始める。日常会話はまあ、それなりにできるけど、さすがに相手の気を悪くさせないように断る言い方は瞬時には出てこない。

 ――その時だった。

「Es tut mir leid. Er ist jetzt m?de. K?nnten Sie bitte das Interview nach der Installation des Termins machen?(すいません。彼は今疲れています。取材は約束を取り付けてからにしていただけますか)」

 流暢なドイツ語が左隣から聞こえてきて、驚いて目を見開く。ドイツ人記者は、大げさに肩をすくめてあっさりと去っていった。

 言ったのは、先ほどまで話していた彼女だった。失礼かもしれないけど、語学力がそんなにあるような風貌ではなかったから、俺は驚愕したんだ。

「…あ、ごめん。なんか困ってると思って断ちゃった。ダメだった?」

 じっと見ていた俺の視線き気づき、苦笑を浮かべながら彼女はいう。

 俺ははっとして、慌ててこう返した。

「いや! 正直助かった。ありがとう」

「あ、よかった」

「…ドイツ語、すごいね。得意なの?」

「んー、得意って言うか。小さいところからいろんなとこ言ってるから、自然に身についた」

「他にも話せるの?」

「英語と中国語…イタリア語…ごめん、日常会話レベルなら、いろいろ……よくわかんない」

「…すご」

「話せないとできない仕事だからねー、女で若いってだけで舐められちゃうんだ。…まあ舐められてるからセクハラとかされちゃうんだけど」

 軽く笑いながらこともなげに言う。俺は心底感嘆し、しばらく彼女を見ていた。・・・すると。

「なんか、君と話してたら元気出てきた! そろそろ行こうかな!」

 彼女は立ち上がり、大きく伸びをしながらスッキリしたように言う。

 ……え。

 待ってくれ。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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