1/20,コロラド州 アスペン空港 no3
- 2018/03/19
- 16:18
歩夢side
年は俺と同じくらいだろうか。パーカーにダメージジーンズという、なんとも色気のない格好だったが、サイズ感が絶妙でかわいらしく着こなしている。
そして細身の彼女にはとても重そうに見える、ごつく大きなカメラを首から下げていた。
目が合って、驚いた。大きな黒い瞳は、吸い込まれそうなほど深く、無遠慮に俺を見ていた。通った鼻筋に、適度に日焼けをしているがきめの細かい肌、形の良い唇。
――来夢が騒ぎそうな容姿をしている。
「あ! 日本人!?」
女は驚いたように言う。……あ、日本人か。どうやららしくもなく見とれていたようで、人種云々を考える余裕がなかった。
こんな日本と数千キロ離れた空港で、隣同士になるのは奇跡に近い。
「……うん」
俺は戸惑いながらも頷く。すると。彼女の顔が花が咲いたように明るく綻んだ。
……初対面の人間に容赦なく笑うな、と思った。
「よかったー! いろいろあって心細かったんだよねー! もう最悪なの!」
「……どうしたの?」
「それがさー、もう聞いてよー!」
すると彼女は俺の反応など見ていないかのように、自分の置かれている状況をマシンガントークで説明しだした。
フォトグラファーとして仕事をしているときに、セクハラされて逃げてきたこと。荷物を全部置いてきて取りにもいけないこと。そして今一文無しなこと。
……はっきり言って詰みである。俺のボードの行方なんて取るに足らないことに思えてきた。
「それは大変だね」
「でしょでしょー! 警察に行かなきゃいけないんだけど、もう疲れちゃってさー。ちょっと休もうと思ってぼーっとしてたの」
「あ、それ俺も。疲れてたからぼーっとしてた」
「君も? 何があったの?」
俺は自分の置かれている状況を話した。どうやら彼女は俺がどんな人物しか知らないらしいから、そこは伏せて。
……知られると面倒な気がした。それにこういう風に女子と話すのは久しぶりで、なんだか新鮮だった。
みんな銀メダリストの平野歩夢、というフィルターを通して接してくるから、瞳の奥に何らかの思惑が透けて見えるから。
「へー、スノーボードやるんだ」
「まあ、やるね。かなり」
「スキー場あるもんね、ここ。確かでっかい大会があるとか。あ、もしかして出るの?」
「……まあ」
「そうなんだー。まあ、ボードがどっか行ったのは大変だけど……すぐ戻ってくるようでよかったねー」
「……うん」
そんな話をしている時だった。
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年は俺と同じくらいだろうか。パーカーにダメージジーンズという、なんとも色気のない格好だったが、サイズ感が絶妙でかわいらしく着こなしている。
そして細身の彼女にはとても重そうに見える、ごつく大きなカメラを首から下げていた。
目が合って、驚いた。大きな黒い瞳は、吸い込まれそうなほど深く、無遠慮に俺を見ていた。通った鼻筋に、適度に日焼けをしているがきめの細かい肌、形の良い唇。
――来夢が騒ぎそうな容姿をしている。
「あ! 日本人!?」
女は驚いたように言う。……あ、日本人か。どうやららしくもなく見とれていたようで、人種云々を考える余裕がなかった。
こんな日本と数千キロ離れた空港で、隣同士になるのは奇跡に近い。
「……うん」
俺は戸惑いながらも頷く。すると。彼女の顔が花が咲いたように明るく綻んだ。
……初対面の人間に容赦なく笑うな、と思った。
「よかったー! いろいろあって心細かったんだよねー! もう最悪なの!」
「……どうしたの?」
「それがさー、もう聞いてよー!」
すると彼女は俺の反応など見ていないかのように、自分の置かれている状況をマシンガントークで説明しだした。
フォトグラファーとして仕事をしているときに、セクハラされて逃げてきたこと。荷物を全部置いてきて取りにもいけないこと。そして今一文無しなこと。
……はっきり言って詰みである。俺のボードの行方なんて取るに足らないことに思えてきた。
「それは大変だね」
「でしょでしょー! 警察に行かなきゃいけないんだけど、もう疲れちゃってさー。ちょっと休もうと思ってぼーっとしてたの」
「あ、それ俺も。疲れてたからぼーっとしてた」
「君も? 何があったの?」
俺は自分の置かれている状況を話した。どうやら彼女は俺がどんな人物しか知らないらしいから、そこは伏せて。
……知られると面倒な気がした。それにこういう風に女子と話すのは久しぶりで、なんだか新鮮だった。
みんな銀メダリストの平野歩夢、というフィルターを通して接してくるから、瞳の奥に何らかの思惑が透けて見えるから。
「へー、スノーボードやるんだ」
「まあ、やるね。かなり」
「スキー場あるもんね、ここ。確かでっかい大会があるとか。あ、もしかして出るの?」
「……まあ」
「そうなんだー。まあ、ボードがどっか行ったのは大変だけど……すぐ戻ってくるようでよかったねー」
「……うん」
そんな話をしている時だった。
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