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1/20,コロラド州 アスペン空港 no3

歩夢side

 年は俺と同じくらいだろうか。パーカーにダメージジーンズという、なんとも色気のない格好だったが、サイズ感が絶妙でかわいらしく着こなしている。

 そして細身の彼女にはとても重そうに見える、ごつく大きなカメラを首から下げていた。

 目が合って、驚いた。大きな黒い瞳は、吸い込まれそうなほど深く、無遠慮に俺を見ていた。通った鼻筋に、適度に日焼けをしているがきめの細かい肌、形の良い唇。

 ――来夢が騒ぎそうな容姿をしている。

「あ! 日本人!?」

 女は驚いたように言う。……あ、日本人か。どうやららしくもなく見とれていたようで、人種云々を考える余裕がなかった。

 こんな日本と数千キロ離れた空港で、隣同士になるのは奇跡に近い。

「……うん」

 俺は戸惑いながらも頷く。すると。彼女の顔が花が咲いたように明るく綻んだ。

 ……初対面の人間に容赦なく笑うな、と思った。

「よかったー! いろいろあって心細かったんだよねー! もう最悪なの!」

「……どうしたの?」

「それがさー、もう聞いてよー!」

 すると彼女は俺の反応など見ていないかのように、自分の置かれている状況をマシンガントークで説明しだした。

 フォトグラファーとして仕事をしているときに、セクハラされて逃げてきたこと。荷物を全部置いてきて取りにもいけないこと。そして今一文無しなこと。

 ……はっきり言って詰みである。俺のボードの行方なんて取るに足らないことに思えてきた。

「それは大変だね」

「でしょでしょー! 警察に行かなきゃいけないんだけど、もう疲れちゃってさー。ちょっと休もうと思ってぼーっとしてたの」

「あ、それ俺も。疲れてたからぼーっとしてた」

「君も? 何があったの?」

 俺は自分の置かれている状況を話した。どうやら彼女は俺がどんな人物しか知らないらしいから、そこは伏せて。

 ……知られると面倒な気がした。それにこういう風に女子と話すのは久しぶりで、なんだか新鮮だった。

 みんな銀メダリストの平野歩夢、というフィルターを通して接してくるから、瞳の奥に何らかの思惑が透けて見えるから。

「へー、スノーボードやるんだ」

「まあ、やるね。かなり」

「スキー場あるもんね、ここ。確かでっかい大会があるとか。あ、もしかして出るの?」

「……まあ」

「そうなんだー。まあ、ボードがどっか行ったのは大変だけど……すぐ戻ってくるようでよかったねー」

「……うん」

   そんな話をしている時だった。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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