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2004/8/31 新潟県村上市 スケートパーク

 

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歩夢side

が父親の運転する車に乗り込むと、容赦なくエンジンがかかる。後部座席に座るは窓を開けて俺の方を見たけれど、俺は母さんの傍らで、不貞腐れて彼女から目を逸らして突っ立っていた。

今日でとはお別れだ。俺がどう足掻いたところで、いくら泣き叫んだところで、それは変えられない。

「ーーあーくん」

が切なげに俺を呼ぶ。さすがに俺は彼女に視線を合わせた。

は潤んだ瞳で悲しげに微笑んで、俺を見つめていた。

「ーーたのしくて、うれしくて……さいごはかなしいけど。あーくんといっしょで、よかった!」

そして笑みを深く刻んで、が言う。瞳の端に溜まっていた涙が大きくなる。切ないの泣き笑い。

そんなの、俺だって。俺の方が。

君と過ごした1ヶ月ちょっとは、生まれて初めての気持ちばかりで。

たのしいとか、うれしいとか、そんなの当たり前の日々で。そんなよくある感情なんか、通り越していて。

ーー俺は幸せだった。

「ーー

「ん?」

「おとなになったら……おれがにじゅっさいになったら、一緒にいてもいいんだって、おれたち」

昨日母さんに言われたことを思い出しながら、俺は言う。

あと15年経ったら。20歳になったら。俺とが大人になったら。

俺は君をさらっても、いいんだって。

「だから大人になったら……ずっといっしょにいよう」

「それって、わたしとあーくんがけっこんするってこと?」

が首をかしげながら俺に問う。

想像していなかった質問内容に、俺は一瞬返答できない。

と一緒に居れさえすれば、別に俺はなんだってよかった。でもよく考えれば、大人になってからずっと一緒に居るってことは、結婚するってことだ。

「ーーそうだね。けっこんしよう」

俺がそう言うと、は目をぱちくりさせた。大人達は微笑ましそうに俺たちを眺めて、笑っていた気がした。

「ーーうん!」

そしてひときわ嬉しそうにが破顔する。それを見た瞬間、涙が溢れそうになった。

でも俺は今日は泣かないと決めていた。だから必死で堪えた。

最後は笑って別れたい。最後の思い出を、涙に濡れたものにしたくない。だって俺たちは、大人になったら一緒に居れる。

泣く必要なんて、ないんだ。

そしての両親と母さんが簡単に別れの挨拶をすると……車が無情に走り出した。

「あーくん! またね! ぜったいだよ!」

「うん、ぜったい!」

「ぜったいぜったい……またあそぼうね!」

「うん!」

そんなことを何度も何度もお互いに叫んでいるうちに、を乗せた車は遠ざかり、そのうちの声が聞こえなくなり、車の姿すら見えなくなった。

俺はしばらくの間魂でも抜かれたようにその場に立ち尽くす。そして立っていられなくなり、座り込んで膝を抱えた。

母さんがそんな俺の肩を無言でぽん、と叩いた。すると途端に堪えていた涙がとめどなく溢れ出した。

あと15年。俺にとっては遠すぎる未来。ーーだけど。

必ず君をさらいに行く。スノーボードとスケボーで世界一になって。





ーー俺の中のの記憶はここまで。それから数年……いや、現在でも、俺は彼女の存在を覚えていた。

しかし記憶の中のはずっと小学一年生のまま。俺も精神的に大人になって、命を燃やした激情的な恋は、そのうち微笑ましい思い出に変わっていった。

スケボーを一緒にやっただとか、がカメラが好きだったとか、との詳細な思い出は、先程思い出すまでは忘却の彼方ですらあった。

あんなこともあったなあ。あの子、今頃どうしてるんだろう。ーーそういえば、どんな顔だったけ。

そんな風に、初恋の甘酸っぱい記憶を、年に数回ふと思い出すくらいになっていた。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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