2004/8/30 新潟県村上市 秘密基地 No.1
- 2018/08/16
- 10:52
Your name
縁日の喧騒と、花火の音が遠くに聞こえる。
秘密基地から見えたのは、いつものように波打つ日本海。しかし暗闇の中海を照らすのは月明かりのみ。ほぼ真っ黒の海は、昼間見た時の清涼感は全く無く、常闇のように怖かった。
「ーーあーくん」
俺がここに連れてきてしまったが、切り株に座り不安げな光を湛えた双眸を俺に向ける。
俺は彼女の隣に佇み、しばらくの間何も言えない。
が明日いなくなってしまうことの恐怖。大人がいない状況で初めて夜の野外にいることへの不安。
いろいろな感情が混じりあって、ぐちゃぐちゃだった。
「ーーいやだ」
そして俺は俯いていて、低い声で言う。
「がいなくなっちゃうの……いやだ」
何かに対して、こんなに主張をするのは生まれて初めてな気がする。俺は年齢の割に達観していて、スケボーやスノーボード以外の事柄には、ほとんど執着がなかった。
初めてだった。こんなに他人に対して俺がこだわるのは。
「ーーわたしだって」
は膝を抱えて、か細い声で言った。同じ想いを彼女が抱いていることを知り、底知れない嬉しさがこみ上げてくる。
ーーしかし。
「このままかくれてれば、がいこく行かなくてすむかな」
俺の言葉には何も答えない。なんで何も言ってくれないんだろうと思った。
ーーと離れたくないというばかりで、俺は全くの気持ちを考えていなかった。この年齢の女の子が、親と離れてまで俺と一緒にいたいわけがない。
でもそんなことまで、俺には考えられなかった。
「ーーむりだよ。わたしはこどもだから」
そしては顔を上げて、寂しげに笑って言った。
「こども、だから……?」
の言っている意味がわからず、俺は彼女の言葉を復唱しながら問う。
「こどもはおとなについていかないと、生きていけないんだよ。ーー私はパパとママといっしょじゃないと」
諦めたかのような口調で言う。俺は彼女の言葉に苛立った。
なんでそんなに簡単に諦めちゃうんだ、と思った。このまま隠れていれば、一緒にいられるのに。俺はまだ、そう思い込んでいた。
「……は、おれといっしょじゃなくてもいいの」
そして少し責めるようにに言ってしまう。するとは慌てた様子で首を振った。
「……やだ。やだよ!」
「だったら、かくれてようよ」
「…………」
語気を強めて言う俺に、は泣きそうな顔をして黙る。俺の心がずきりと痛む。なんでこんな顔を俺は彼女にさせてしまっているのだろう。
の笑った顔が好きなのに。
ーーすると。
「あーくーん! ー!」
「どこー!? どこにいるのー!?」
母さんや、近所に住むおじさん達の声が聞こえてきた。俺達を捜索する、必死な大人達の声。
俺は見つからないように口を噤んで身を屈めた。
ーーしかし。
が切り株から立ち上がる。そして俺の方をじっと見て、優しく諭すようにこう言った。
「ーーあーくん。もどろう」
その言葉に俺は呆然とする。
「ーーなんで。大人にみつかったら、とあえなくなっちゃうよ」
「……そうだね」
「そんなのいやだよ」
「ーーわたしだって」
「じゃあなんで!」
「だって……わたしたちは、こどもだから」
「ーーいみわかんない! なんで……!」
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