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2004/8/30 新潟県村上市 秘密基地 No.1

 

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歩夢side

縁日の喧騒と、花火の音が遠くに聞こえる。

秘密基地から見えたのは、いつものように波打つ日本海。しかし暗闇の中海を照らすのは月明かりのみ。ほぼ真っ黒の海は、昼間見た時の清涼感は全く無く、常闇のように怖かった。

「ーーあーくん」

俺がここに連れてきてしまったが、切り株に座り不安げな光を湛えた双眸を俺に向ける。

俺は彼女の隣に佇み、しばらくの間何も言えない。

が明日いなくなってしまうことの恐怖。大人がいない状況で初めて夜の野外にいることへの不安。

いろいろな感情が混じりあって、ぐちゃぐちゃだった。

「ーーいやだ」

そして俺は俯いていて、低い声で言う。

がいなくなっちゃうの……いやだ」

何かに対して、こんなに主張をするのは生まれて初めてな気がする。俺は年齢の割に達観していて、スケボーやスノーボード以外の事柄には、ほとんど執着がなかった。

初めてだった。こんなに他人に対して俺がこだわるのは。

「ーーわたしだって」

は膝を抱えて、か細い声で言った。同じ想いを彼女が抱いていることを知り、底知れない嬉しさがこみ上げてくる。

ーーしかし。

「このままかくれてれば、がいこく行かなくてすむかな」

俺の言葉には何も答えない。なんで何も言ってくれないんだろうと思った。

ーーと離れたくないというばかりで、俺は全くの気持ちを考えていなかった。この年齢の女の子が、親と離れてまで俺と一緒にいたいわけがない。

でもそんなことまで、俺には考えられなかった。

「ーーむりだよ。わたしはこどもだから」

そしては顔を上げて、寂しげに笑って言った。

「こども、だから……?」

の言っている意味がわからず、俺は彼女の言葉を復唱しながら問う。

「こどもはおとなについていかないと、生きていけないんだよ。ーー私はパパとママといっしょじゃないと」

諦めたかのような口調で言う。俺は彼女の言葉に苛立った。

なんでそんなに簡単に諦めちゃうんだ、と思った。このまま隠れていれば、一緒にいられるのに。俺はまだ、そう思い込んでいた。

「……は、おれといっしょじゃなくてもいいの」

そして少し責めるようにに言ってしまう。するとは慌てた様子で首を振った。

「……やだ。やだよ!」

「だったら、かくれてようよ」

「…………」

語気を強めて言う俺に、は泣きそうな顔をして黙る。俺の心がずきりと痛む。なんでこんな顔を俺は彼女にさせてしまっているのだろう。

の笑った顔が好きなのに。

ーーすると。

「あーくーん! ー!」

「どこー!? どこにいるのー!?」

母さんや、近所に住むおじさん達の声が聞こえてきた。俺達を捜索する、必死な大人達の声。

俺は見つからないように口を噤んで身を屈めた。

ーーしかし。

が切り株から立ち上がる。そして俺の方をじっと見て、優しく諭すようにこう言った。

「ーーあーくん。もどろう」

その言葉に俺は呆然とする。

「ーーなんで。大人にみつかったら、とあえなくなっちゃうよ」

「……そうだね」

「そんなのいやだよ」

「ーーわたしだって」

「じゃあなんで!」

「だって……わたしたちは、こどもだから」

「ーーいみわかんない! なんで……!」


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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