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2004/8/14 東京 ホテル

 

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歩夢side

その日俺は、英樹が出場するスケボーの大会の付き添いで、父さんの運転する車で東京へと赴いていた。母さんは海祝と村上に残り、スケートパークを営業している。

小学生の部で見事に優勝した英樹。俺は年齢的にまだ大会に出れず、大会のパークで風を切って滑る英樹を、羨ましそうに眺めることしか出来なかった。

ーー早く大きくなって、スケボーもスノーボードも、いろいろな大会に出て、いい成績を残して。

誰もついてこれないような、真似出来ないようか、世界一の存在になりたい。

先日、と短冊で誓い合った夢を叶えることを、強く決意した、そんな日の夜。

「歩夢も母さんと話す?」

宿泊しているホテルの部屋で、母さんと電話していた父さんが、俺に携帯を向けて言った。

「ーーうん」

こういう時、いつもなら「別にいい」と言って、特に話さないことも多い俺だったが、特に今日は母さんと話したかった。

今日は早朝に村上を発ったため、とは会っていない。今日のの様子はどうだったのだろう。俺がいないスケートパークでも、いつものように元気に練習していたのだろうか。

夏休み初日にと出会ってからは、毎日一緒に過ごしていた。それから離れて過ごすのは、今日が初めてだった。

やたらと俺は、東京からは遠い村上にいるの様子が気になった。

「ーーかーちゃん」

『 あ、歩夢ー? 東京、大丈夫? おにーちゃん優勝したね!』

「うん、すごかった」

英樹や他の選手の滑りは確かに見応えがあり、わくわくしたけれど、今の俺はそれどころじゃない。

、きてた?」

? ーーあ。そういえば』

母さんは少し間を開けてから、こう続けた。

『 そういえば今日はいなかったわね。どこかへお出かけかしら?』

「……え」

想像していなかった母さんの答えに、俺は固まる。

昨日、「明日はおれいないよ」と俺がに説明した時、は「そうなんだ。じゃあひとりでがんばるね」と言っていたのだ。

家族と出かけるだとか、そんな話はしていなかった。だからスケートパークに来ないなんてこと、考えられなかった。

ーー今になって思えば、小さなが自分の予定を把握していなかっただとか、そういう可能性も考えられるけれど、幼い俺にはそんなことは思いつかなかった。

「……いなかったんだ、

『そうなのよー、毎日いたのに珍しいね 』

「ーーうん」

『そういえばあの子、いつまで村上にいるのかしら? 夏休みが終わるまでとは言ってたけど、 お父さんの仕事が終わったら早く帰ることもあるのかな?』

母さんの言葉に、俺は呆然とする。

出会った当初、夏休みが終わるまで村上にいると言っていた。だから俺は自然に、夏休み最終日の8/31まではスケートパークに来てくれるんだと思い込んでいた。

まさか、今日スケートパークにが来なかったのは。

ーーもう村上にいないから……?

『あーくん、どうしたの? 』

急に黙りこくった俺を不思議に思ったのか、母さんが問う。

「ーーなんでもない。じゃ、あした」

俺はかろうじてそれだけ言うと、父さんに携帯電話を返した。

頭の中がぐちゃぐちゃする。なんで、どうして、といった想いが、何度も何度も反芻する。

毎日欠かさずスケートパークに来ていたが、今日はいなかった。それはイコールはもう居ないと、幼く考えの浅い俺の中では結論づけられて。

なぜこんなに心が乱されるのかは、分からない。スケートパークは人の出入りが激しい。定期的に通っていた子が、突然来なくなることなんて珍しくない。そんなのもう、慣れっこだった。

それなのに、どうしてがもういないと思うと、悲しいほどに俺は落胆してしまうのだろう。

その日俺はなかなか眠れなかった。普段は初めて泊まる他人の家でも、車内でもすぐに寝入ることの出来る俺。だから、慣れないホテルのベッドだから、というせいでは決してなかった。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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