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2004/8/10 新潟県村上市 秘密基地 No.2

 

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は晴れやかに笑う。もう先程しょげていたことなど、忘れてしまったように。

ここのことは家族も友人にも、誰にも教えたことはなかった。俺だけの、特別な場所にしておきたかったからだ。

だけどにだけは、ここの存在を教えてもいいと思えた。ーーそれどころか、彼女と共有したかった。

2人だけの秘密の場所にしておきたかったのだ。

「うみ、きれいだね! あーくん」

太陽の光が反射してきらきらしている海に負けないくらい、が眩く笑う。

その顔があまりにも輝いていて、心の奥を奪われた気がした。無意識のうちにじっとを見つめてしまった。

「……あーくん?」

無言で見てくる俺を不思議に思ったらしいが、不思議そうに俺に尋ねた。俺ははっとし、思わず目を逸らした。

「な、なんでもない。……あ、そうだ」

さらに誤魔化そうと、俺は母さんに言われていたことを思い出して、ポケットの中を漁った。

「これ、母さんが。ねがいこと、書けって」

母さんに渡されたのは、2枚の短冊。数日後に村上と七夕祭りがあるので、そこで飾られる笹に吊るす短冊だ。

「ねがいことかあ……」

は海を眺めながら思考を巡らせていた。俺もいざ書く、という段階になり、初めて内容について考え始めたので、書くことがなかなか決まらない。

短冊と一緒に持ってきた鉛筆を回しながら、欲しいおもちゃとか、スケボーで出来ない技ができるうになりますようにとか、そんなことを書くのかなとか考える。

ーーすると。

「やっぱり、大人になったらなりたいものを書くのかな?」

ーー大人になったら、なりたいもの。の言葉に、新たな選択肢が生まれた。

「……は」

「ん?」

「何になりたいの、大人になったら」

「わたしはねー、パパみたいなしゃしんをとる人!」

そういえば、の父親は有名なカメラマンだと母さんが言っていた。村上にも、写真を撮るためにやって来たらしい。

「この前、パパにふるくなったカメラもらったの。そしたらね、しゃしんとるの楽しくて! だからパパみたいにかっこよくしゃしんとれるようになりたいんだ」

が楽しそうに、しかし真剣に、将来の夢を語る。

幼い俺にはよく分からなかったけれど、スケボーを転んでも泣かずに練習し続けるは、頑張れば何にでもなれる気がした。

ーーそう。その頃の俺たちは、可能性に満ち溢れていた。大人になったら、なんでも出来る。何にでもなれる。そう信じて、疑わなかった。

「ーーあーくんは?」

「え?」

「大人になったら、何になりたいの?」

の問いに俺は少しの間返答に躊躇した。この時から、俺の将来の夢は決まっていた。

けれどあまりにも大それた、大きな夢だったので。ーー笑われないかな。一瞬、そう思ってしまった。

だけど、なら絶対に茶化すようなことは言わない。なぜかそんな確信があったので、俺は意を決してこう言った。

「スケボーと、スノーボードで……世界一になりたい。ぜったい、なる」

はっきりと俺がそう言うと、は大きな双眸で俺を吸い込むように見つめてきた。

ーーそして。

「ーーじゃあ、あーくんが世界一になったとき」

「うん」

「わたしがしゃしんとるね!」

満面の笑みを浮かべ、屈託なく疑いもせずに言う。

あーくんなら世界一になれるよ、とか、はそんなことを言ってくるような気がしたけれど。

彼女はさらにその先の話をしていた。二人とも夢が叶っていることが前提での、未来の話を。

「……うん」

嬉しいような切ないような、よく分からない感情が溢れ出そうになり、俺は俯いて小さく頷く。

そして俺達は、近くの切り株を机にして、短冊に願いを書いた。

5歳の俺は全て平仮名で。1歳上のは片仮名も交えて。

“パパみたいなかっこいいカメラマンになれますように”

“すけぼーとすのーぼーどでせかいいちになる”

数日後に、つたない文字で書かれたその2枚の短冊は、家の近くの笹に吊るされて風に揺られていた。







短冊に書いたお願い叶ったことがありません……

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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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