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2004/7/25 新潟県村上市 スケートパーク

 

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歩夢side

「あら、ごめんねー。今日施設の点検って忘れてたわ、あーくん」

朝、いつも通りに母さんが運転する車でスケートパークに行くと、パーク内の施設を点検をする業者の車が停まっていた。

利用者の安全のための点検はたまに行っているのだが、点検中はもちろんパーク内でスケボーをすることはできない。

「ーーどうしようかな。海に遊びにでも行く?」

「そうしようかな〜」

「…………」

母さんの提案に、海祝と手をつなぎながら賛成する英樹の横で俺は黙る。

「ん? どうしたの、あーくん」

「……がくるかもしれない」

そんな俺の様子に気づいた母さんの問いかけに、俺は控えめにそう答える。

とは昨日もほぼ一日中パークで一緒に過ごしたのだが、今日が施設の点検の日だって伝えていなかった気がする。

だからほぼ確実にはここに練習をしにやってくるだろう。それで誰もおらず、パークが入れないとなってしまえば、待ちぼうけになってしまう。

すると母さんはなぜか一瞬少し驚いたような顔をすると、微かに微笑んだ。

「ーーそっか。そうね。それならあーくんはここでが来るのもう少し待つ? もしが来たら、これで2人で隣の旅館の売店でアイスでも買っといで」

「……うん」

母さんが俺に200円渡しながらそう言うので、俺は頷きながら答える。

そして「えー、俺もアイスはー」という英樹に「あとで買ってあげるから」と母さんは言いながら、英樹と海祝を連れて海岸の方へと行ってしまった。

俺は3人の背中を見ながら、パーク入口の縁石に腰掛ける。そして潮風を頬に感じること10数分ーー。

が旅館の方からてくてく歩きながらこちらへやってきた。

「あれ、あーくんどうしたの? なか、はいらないの?」

「きょうはやすみなんだ、パーク」

俺の様子に首を傾げながら尋ねるに、俺は答える。するとは残念そうな面持ちになった。

「えー、そうなんだー。れんしゅうしたかったなあ」

「かーちゃんがアイスかっていいって、おかねくれたよ。いっしょにかいにいこう?」

心底残念そうにするに俺がそう言うと、アイス、という単語を聞いた瞬間にの身体がぴくりと震えた。そしてみるみるうちに明るい表情へと変わっていく。

「アイス! たべたい!」

うきうきとした声音でが言う。その様子がやけに微笑ましくて、俺の顔を自然にほころんだ。

「はい、じゃあこれ」

「うん、ありがとー!」

そして俺は母さんからもらった100円玉2枚のうち、1枚を渡した。ーーが。

「あっ……」

はその100円玉をポケットに入れようとしたらしい。しかし手がポケットの縁に引っかかり、100円玉を落としてしまった。

そしてそのままコロコロと転がっていく100円玉。は追いかけるがーー。

なんと、100円玉は格子状の蓋がされている側溝の中に転がり落ちてしまった。

「……あーくんから、もらった……アイス代」

はか細い声でそう呟くと、肩を震わせ始めた。唇を噛み締め、涙を堪えている表情。

「ご、めん……あーくん……せ、せっかく、もらったの、に……アイスぅ……」

しかしの大きな瞳の端から、次第に涙が零れ始める。

その光景を見て俺は驚く。

ーースケボーで豪快に転んだ時も、たけしに追いかけられた時も、泣くどころか、弱気な表情すら見せなかったのに。

まあ、子供にとってアイスが食べられなくなることはひどく悲しいことだが、転んだ痛みに耐えられたりいじめられっ子に立ち向かう勇気があったりする子が、泣くほどの事件だとはどうしても思えない。

なんかって。

ーーよくわかんなくて、面白い。

俺はとうとうその場でしゃがみこんで泣き出すの姿に、失礼ながら笑いそうになってしまったけれど、それはあまりに無慈悲な気がしたのですんでのところで堪えた。

「……、ちょっとまっててね」

俺はそれだけ言うと、ダッシュで旅館に入って一直線に売店に向かう。そして冷凍庫の中からパピコを取り出して購入し、これまたダッシュでがいる場所へと戻った。

「はい、これ」

そして袋を開け、2本つながっているパピコを両手で割り、1本をに差し出す。

「え、これ……」

「はんぶんこ。……いっしょにたべよ」

泣き顔で戸惑うに、俺は照れくさくて少し無愛想に言ってしまう。……本当に子供の頃の俺はどうしようもない。19歳の今でも、あまり愛想のいい方ではないが。

しかしそんな細かいことを気にするではなかった。の泣きっ面が、みるみるうちに輝き出し、やがて満面の笑みへと変わった。

「あーくん! ありがとう! ……でもおかねおとして、ごめんね」

「ーー別にいいよ」

自分顔が赤くなってしまった気がして、俺は恥ずかしくてそっぽ向きながら言った。そして縁石の上に座って、パピコの開け口を噛み切って、吸い始める。

するとはそんな俺の隣にくっつくように座り、同じようにパピコを食べ始めた。

「おいしいね、あーくん」

「ーーうん」

そして俺たちは2人でゆっくりとアイスを一緒に食べた。2人で分け合ったアイスを。

ーーいつも食べるアイスより量は減ってしまったけれど、何故かいつもより充足感があり、穏やかな気持ちになった。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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