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2004/7/21 新潟県村上市スケートパーク No.2

 

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ーー正直、めんどくせえと思った。やっと夏休みになって思う存分スケボーに専念できると思ったのに。

しかも、よりによって女の子だ。

スケートパークの教室にはたまに女の子も来るけれど、転ぶとすぐ泣くし痛がるし、先生が注意深くケアをしないとすぐ通わなくなってしまう子も多い。

その頃の俺は少し放っておいても自分から率先してスケボーを滑るような、男ばっかりとつるんでいた。だって、女の子はめんどくさいから。

目の前の女の子は、5歳の俺が見た中では今までで最も可愛い子だったけれど、子供の俺にとってはかわいい女の子と関わるより、スケボーがうまくなることの方が断然大事だったのだ。

ーーだけど。

「……うん」

俺は小さく母さんの言葉に頷く。

母さんはおおらかだから、滅多なことでは怒らない。だけど、怒りが爆発した時は、激怒した父さん以上の鬼と化す。

特に、友達を悲しませたり、仲間外れにしたりといった、相手を傷つけることに関しては、すこぶる厳しかった。

だから、この時の俺に拒否権はなかったのである。

すると、大人達は俺のその返事にもう良しとしたのか、3人で村上の名物やらおすすめの場所やらを話し出した。俺は女の子と2人で取り残された形になる。

何を話したらいいのか分からない。俺はたまに瞬きをしながら相変わらず俺を見つめる女の子に、ただ気圧されるまま口を開くことが出来なかった。

ーーすると。

「ねえ、あのさあ」

そんな俺を気にする様子も初対面の相手に緊張する様子もなく、女の子は平然と言葉を紡ぐ。人見知りの5歳の俺は瞬時に反応できなかった。

だが、彼女はやはりそんな俺には構わず、こう続けた。

「ああいうこと、できるの?」

女の子は、ランプでスムーズに滑り、数々のトリックを決める大人を指差しながら、俺に尋ねた。

「……できるよ」

俺は遠慮がちに答えた。会話が質問形式だったから、答えやすかった。

すると女の子は、ただでさえ大きな瞳をさらに大きく見開いた。

「ほんとに!? きみみたいにちいさくてもできるの!? みたい! やってやって!」

そして興奮した様子で俺に詰め寄りながら無邪気に言う。……なんだか、悪い気がしなかった。

俺は頷くと、スケートボードを抱えたままランプの方へと向かった。そして縁から勢いよくドロップインし、曲線を滑らかに滑ったり、縁でインターフェイキーやアクセルストールを決めたり、ランプの底面でウォーリーをやって見せたりした。

しばらく滑ってから、女の子のいた場所に戻ると、彼女は瞳をこれでもかというくらいに輝かせていた。

「すごいすごい! あんなこと、できるんだ! かっこいい!」

そして俺を容赦なく褒めちぎった。あまりに素直に称賛してくるから、俺は照れくさくなり、何も言わずに頭をかいた。

ーーなんだろう。心の奥から、感じたことの無いくらいの深い嬉しさがこみ上げてくる。

「わたしもできるようになれる!?」

そして期待に満ち溢れた瞳で俺に尋ねてきた。

「……れんしゅうすれば、できるようになれるかも」

興奮した彼女とは対象的に、俺はドライに答える。小さい頃の俺はあまり人と話すのが得意じゃなくて、いつもこんな感じだった。もっと気の利いた返答をすればいいのに。

だが、女の子はそんな俺の様子など、やはり気に止めていなかった。思えば、そんな不躾とも思える彼女のマイペースさが、やけに心地よかった覚えがある。

「やってみる?」

そして俺は自分のスケートボードを床に下ろし、女の子に言った。彼女は勢いよく頷く。

そしてそのままいきなりボードの上に、ためらいもせず両足を乗せたから俺は驚いた。

スケートボードはバランスが取りづらく、最初は乗るのすら怖いものなのに。指導する人が手を繋いで支えてあげながら、やっと乗れるという子も珍しくない。

ーー怖くないのかな。女の子なのに。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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