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ドレスアップ No.6

 

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「え……?」

俺の言葉を聞いたの瞳に、戸惑いの光が宿る。しかしそんなことには構わずに、俺は強くを見つめたまま、低い声で言葉を続ける。

「触らせたくないんだよ。ーー誰にも」

「どういう、こと……?」

突然露わにした俺の独占欲に、の理解が追いついていないようだった。

普段から魅力的な。しかし、今日はいつもとは違う方向性で、神がかりできな美しさを放っていて。

野外で、いつ誰に見られるかもわからない状況だけれど、こんな暗闇の中で二人っきりでいたら。

ーーおかしくだってなってしまう。

「……こういうこと、だよ」

そう言って俺はから目を離さないまま、頬にそっと手を触れる。そして驚いて俺を凝視しているには構わず、そのままーー。

口付けをする。

長い間、唇を重ねることはできなかった。こんなに美しい存在に、邪な感情を抱くことはいけいいことな気がして。何より、これ以上深くと触れ合ってしまったら、こんな場所にも関わらず、自分が何をしでかすか分からなかったから。

だから、自発的に数秒で、俺は口を離した。

は呆然とした面持ちで、何も言わずに俺を見ていた。俺の行動に理解が追いついていないようだった。無感動な様子で、ただただ色の無い瞳を俺に向けている。

ーーあ。やばいのか。この後我に返って、が怒るパターンなのかも。

だが、しかし。

「ーーずるいよ、歩夢くんは」

は俯いて、呟くように言った。少し俺を責めるような口ぶりだったが、怒っている訳では無さそうだ。

「え……?」

「いつも……私にこんなことして。ーーずるいよ」

「何が、ずるいの?」

「だって……歩夢くんにこんなことされたら、私……」

は顔をゆっくりあげた。瞳が少し潤んでいて、頬もやや紅潮していて。切なげな面持ちだった。

そしてが続きの言葉を紡ごうと、口を開きかけた。ーーその時だった。

俺がポケットに突っ込んでいたスマホの着信音が鳴って、が口を閉ざす。俺ははっとし、スマホを取り出し画面を見る。来夢からの着信だった。

会場で俺を探しているのかもしれない。状況的に出なきゃまずそうだったので、俺はに「ごめん」と言うと、スマホの通話ボタンを押す。

「ーーはい」

『 歩夢ー、どこ行ったんだよー。スキー連盟の人が探してたぞ』

「……あ。ごめん、すぐ行くわ」

やっぱり思った通りだった。いろいろお世話になっている方々なので、このままスルーするのはあまりよろしくないだろう。

「なんか、俺探されてるみたいだから。行くね」

「ーーうん」

するとはちょっと切なそうに微笑んで、小さく頷いた。

ーーさっき、はなんと言おうとしたのだろう。

俺には検討が全くつかず、聞きたいような聞くのが怖いような……複雑な感情が胸に宿る。

しかし、早く会場に戻らなければならない俺は、を残して足早にホールへと向かうのだった。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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