ドレスアップ No.5
- 2018/07/17
- 05:04
Your name
会場の外へ出て、辺りを見回しながら小走りでを探すと、あっさりとその姿が見つかった。
は会場の出入口近くにあった備え付けのベンチに腰掛け、ぼーっとした表情で空を眺めていた。
ーー本人は無自覚だろうけど、その妖艶な出で立ちで無防備な表情は……その、なんていうか。ーーそそる。
しかし、どっかの見知らぬ男に連れ出されたんじゃないようで、俺は心から安堵する。
「ーー」
「ん? あ、歩夢くん」
呆けた表情から、気の許した笑みへとの面持ちが一瞬で変わる。ーー俺を初めとする、一部の人間にしか向けない微笑み。
「どしたの、気づいたらいなくなってたからびっくりした」
の隣に腰を下ろしながら、俺は言う。するとは少し申し訳なさそうな顔をした。
「……あ。ごめん。ドレスが窮屈だし、会場には人がいっぱいだしで、ちょっと目が回っちゃって。落ち着くまで外の風にでも当たってこようかと」
「え、大丈夫?」
「ん、もう大丈夫だよ。……早くこれ脱ぎたいけどね」
可笑しそうに笑う。超絶お似合いだから、もう脱いでしまうなんてもったいないけれど。
「……ごめん。無理やり連れてきちゃって、嫌な思いさせちゃって」
いつもと違うが見たいからと言って、ここに来るのを拒否していたを、ほとんど強引に連れてきてしまった。
俺のせいで具合が悪くなった気が来て、心底申し訳ない気分になった。
「え! いやいや! 嫌な思いなんかしてないよー! SNOW AWARD自体は、スキーとかスノボの有名選手を見れて楽しいし、なんだかんだ言ってドレス着て綺麗にしてもらったのは嬉しかったから!」
俺の気を察したのか、が慌てた様子で言った。
「え? じゃあなんで最初はあんなに嫌がってたの?」
貸衣装屋で一緒に行くんだよ、と俺が言った時に、速攻で「無理!」と言われたことを思い出し、俺は不思議になって尋ねる。 するとは何故か照れたような顔をして、俺から視線を外し、斜め下を見た。
「いや……その……あれは、ね」
「何?」
「歩夢くんが……か、かっこよすぎて」
「…………え?」
の言っている意味がわからず、俺は首を傾げる。ーーなんで俺がかっこよすぎることが理由になるんだ。っていうか、俺のことかっこいいと思ってるのか。それはすごく嬉しいけど。
「だ、だって! タキシードの歩夢くん普段と全然違ってて! なんかキラキラしてるんだもーん! 見るだけで……その、ドキドキしちゃって……。ち、近くにいたらやばいと思ったんだよー!」
顔をさらに赤くしながら、俺にとってとんでもなく嬉しくなることを主張する。
ーーなんだ、それ。そんなの、そっちこそ。
「ーーの方こそ」
「えっ?」
俺は隣に座るに詰め寄るように近づき、彼女と瞳を重ねる。俺の強い視線には少したじろいだようだったが、俺は瞳に力を込めて目をそらすことを許さない。
「今日すごく……きれいで」
そしてゆっくりと、はっきりと言った。は俺の言葉に目を見開く。
「みんな見てたよ、のこと。ーー気づいてないの?」
「え……あ、その……」
普段写真を撮ることしか考えていないは、こういった事に酷く耐性がない。なんて言ったらいいか分からず、言葉がうまく出てこないようだった。
ーーかわいい。そんな艷美な見た目をして、擦れていないというギャップ。反則に近い。
「ーーやっぱ連れてこなきゃよかった、って思った」
「え……どうして?」
「だって、気が気じゃないよ。がどっか他の奴に連れていかれそうで。みんな狙ってるのに、隙だらけだからさ、は」
「そ、そんなこと無……」
「そんなこと、あるよ。ーーが綺麗すぎるから」
そう言うと、言葉に詰まったが、耳までも赤く染めるほど大層な赤面をした。
ーーあ。これ本当にヤバイわ。今は周囲に誰もいない。ーー耐えられるかな、俺。
「……俺以外の奴に、見せたくない」
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