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ドレスアップ No.3

 

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歩夢side

の横を男が通り過ぎる度に、皆が皆一瞬目を見開いて驚愕の表情になり、その後ものことをこれでもかと言うくらい目で追い続ける。

そして俺がの傍らから離れずに少し鋭い視線を彼らに浴びせると、彼らはすごすごと退散するか、俺の目を盗んで彼女を見つめ続けるか、のどちらかだった。

SNOW AWARDの会場に入ってからというものずっとそんな感じで、俺の気が休む暇はなかった。

は元々整った顔立ちをしているけど、カジュアルな服装しかしないし、派手なタイプではないので、そこまで目立つ女の子ではない。

ーーまあ、よく見ると、「あれ、この子実はすごく可愛くない?」という感想を抱くのが普通のようで、にちょっかいを出してくるやつは結構いたが。

しかし今日のは、そのドレスアップした姿と、すらりと伸びた手足から、後ろ姿からでも、華やかなオーラが凄まじい。

そんなの気配に屈服させられてしまうのは、男なら仕方の無いことだろう。

ーーしかし俺は許さない。

「はー、なんか緊張するねー、こういう格好だと」

会が始まる前の会場内で、俺の横で苦笑を浮かべながら言う

やっと今日のの姿に慣れてきたけれど、やっぱり圧倒的に綺麗だなあと思う。

「ーーそうだね。俺肩凝ってきた」

「私は足が痛いよ、ヒールあんまり履かないから。早く脱ぎたいなー」

足元の黒のピンヒールを見ながら忌々しげにが言う。

ーー似合ってるのに。脱ぐなんて、もったいない。

俺がそんなことを思っていると。

「歩夢ー!」

偉く聞き覚えのある声が背後から聞こえてきたので、俺は振り返る。

しかしは会場の喧騒によって声には気づかなかったようで、ウェルカムドリンクのオレンジジュースを飲んでいた。

「あ、來夢」

來夢が俺の元へと駆け寄ってきた。例によってタキシードを着用している。

「いつもジャージとかウェアだから、疲れちゃうよな―、こういうの」

困ったように笑いながら来夢が言うので、俺は頷く。

「ーーほんとそれ。五輪のスーツですら、あんまり好きじゃないのに」

「スノーボーダーは基本ゆるい格好しかしねーからなー。……あれ、ところで」

「ん?」

ちゃんは? 来てるの?」

きょろきょろしながら辺りを見回す大好きな來夢。はいまだに來夢には気づいておらず、彼に背を向けてジュースが入ったグラスを傾けている。

「ああ、ならそこに……」

俺がの背中を手で指し示しながらそう言うと、俺たちの会話に気づいたのか、がゆっくりと振り返った。

「あ、來夢くん。元気ー?」

そして來夢に向かって微笑んで、いつもの調子で言った。ーーすると。

「………………え…………あ…………、ちゃん……?」

來夢が呆然とした顔をする。今日のの、絶世の美女っぷりに、全神経が奪われているようだった。

「ん?」

そんな來夢の様子に、彼をじっと見つめながら首を傾げる。ーーおい。そんな可憐な仕草で、艶のある瞳を來夢に向けなんかしたら、ヤバいだろ。

「ーーーーはぅ」

訳のわからない声を上げると、來夢はその場でばたーんと倒れ伏した。倒れた來夢は口をあんぐりと開け、白目を向いている。ーー魂ごとやられたかのような、そんな様子。

「え! ちょ、ちょっと! 來夢くん!? 大丈夫!?」

は倒れた來夢の横でかがむと、不安そうな顔をして來夢を揺さぶる。しかし、当の來夢はというと。

「……もう、悔いはない……俺の人生……」

などと、まるで辞世の句のような言葉をうわ言のように呟いた。

ーーまあ、こうなると思ったわ。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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