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ドレスアップ No.2

 

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歩夢side

ーー全く、何逃げようとしてんだは。

隣の部屋で、がおネエにメイクアップやらヘアセットやらをされているのが完了するのを、俺は少し不機嫌な心情で待っていた。

今日一緒に出席することを伝え忘れていたかもしれない俺も悪いが、「無理!」なんて、速攻拒否することないのに。

かしこまった場所が苦手なのだろうか。俺もあんまり得意じゃないのだけれど。

まあ、だからこそコミュ力の高いマネージャーのが一緒にいてくれれば、適当に誤魔化せそうな場面が多そうだから、連れていきたいと思ったのだ。

ーーがドレスアップした姿だって、見たいし。っていうか1番の目的はそれだったりする。

普段はカジュアルな服が多い。それでも俺にとっては世界一愛しい存在だが、肩を出し、高いヒールを履いたエレガントなは、また別な魅力がありそうで。

ーーどんなドレスかな。の印象的に、明るめの暖色系の色だろうか。

そんなことを俺が考えていると、部屋のドアがノックされた。の支度が終わったのだろうか。俺はわくわくしながら「どうぞ」と言う。

「おまたせー、できたわよーん」

予想外なことに、入ってきたのは例のオネエだった。一瞬がっかりする俺。

「彼女は隣の部屋っすか?」

「そうなの~。私がいじくり回したから疲れちゃったみたーい。ドレッサーの前に座って力尽きてるわん。行ってあげてくれる?」

「……そうっすか」

そんなに大変だったのか……? ちょっとに同情する俺。

まあ、それでもついにのドレス姿が見れる。俺は軽い足取りで隣の部屋へと向かう。

ドアを開けると、これまた予想外な光景が目に入ってきた。

(黒……?)

ドレッサーの前の椅子に腰掛け、おネエの言う通り力尽きかけて俯いているの後ろ姿しか見えないが、そのが纏っているドレスの色は、黒。

黒のドレスはセクシーなイメージがあったので、いつも明るく元気そうなの印象とは、ちょっと離れている気がした。

ーーどんな風に着こなしているんだろ。

……?」

俺は彼女のを呼びながら、近づく。するとは俯いていた顔をゆっくり上げ、俺の方を向いた。

ーー瞬間、俺は息を呑む。

いつも下ろしているか、無造作に一つに束ねられているかのサラサラの髪は、綺麗に巻かれ、顔周りを残してアップスタイルになっていた。

また、がまとっているドレスは、ワンショルダーで片方の肩が出され、普段は決して見ることの出来ないの白い肌が、容赦なく露出されている。

そして極めつけは、そのメイク。

いつもすっぴんとほぼ変わらないようなナチュラルメイクの。もともと長い睫毛は、マスカラでさらに伸ばされ、瞼にはグラデーションのはっきりしたアイシャドウを塗られている。普段から大きな瞳が、さらに深く広がりのある双眸になっていた。

頬にはピンクのチーク、唇にはパールの入った口紅。

それらは、いつものとは全然違う、大人の妖艶な女性向けのメイクだった。

しかし、それが驚くほど似合っている。が化粧映えする顔と言ったおネエの審美眼に俺は感嘆した。

いきなりのドレスアップに疲弊したらしいは仏頂面だったが、そんな不機嫌な顔が余計に気だるく甘い色気を醸し出していた。

予想以上ーーいや、予想外もいいところだ。なんだ、この絶世の妖艶な美女は。そんじょそこらの女優とか、モデルなんて目じゃないんじゃないか?

本能的に見蕩れてしまった俺は、顔が熱くなっていくのを感じた。そのままを見続けていたら、血液が沸騰してしまうんじゃないか。

そんな危険を感じ、俺は反射的にから目を逸らした。ーーすると。

「歩夢くん?」

の不安そうな声が耳に入る。俺が急に顔を背けたから、心配になったのかもしれない。

「……え、あ、うん」

ーーが、の美貌を直視できない俺は、目線を外したまま、覚束無い返事をする。

「な、何!? なんでそっぽ向いてんの!? もしかして変!? 似合わない!?」

すると、がうろたえたような声を出す。ーーいや、似合いすぎてる。だから困ってる。

「いや……違う……よ」

魅了されている俺は、うまく言葉が出てこない。頭を抱えながらかろうじてそれだけ言った。

「えー!? じゃ、じゃあなんでこっち見ないの!? やっぱり変なの!? ねえねえ!」

椅子から立ち上がり、ヒールの音をコツコツ響かせながら、俺に詰め寄る

「ねーってば!」

俺は目を片手で塞ぎ、視界を遮る。しかし、いつもののいい香りが鼻腔をくすぐり、火照った気持ちは収まらない。

ーーおい、あんま近寄らないでくれ。どうかしてしまいそうだ。

「歩夢くんってば! ……きゃっ!?」

「ーーえ」

俺の方へと詰め寄ってきていたが、普段履きなれていないヒールの靴によってバランスを崩したらしく。なんと俺の方へと倒れ込んできた。

咄嗟にを受け止めてしまう俺。偶然にも、抱き合っているような形になってしまった。

「あ……」

その状況に気づいたのか、俺の鼻先数センチにあるの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。

ーー普段の俺なら、こんなラッキーチャンスは決して逃さない。キスの一つや二つや三つくらい、するところだが。

(ーー綺麗すぎ)

間近で眺める変身したは、先程よりもさらに気高く美しく見え、不埒なことを考えるのは恐れ多い気さえした。

ますます魅了されてしまい、俺はまた目を逸らす。

「ーー大丈夫?」

そしてこれ以上密着していると本当に何かが爆発してしまいそうだったので、の手を取り、彼女をちゃんと立たせる。

「あ、ありがとう、歩夢くん」

そう言うの表情は、いつもの柔らかく懐っこい笑みを浮かべていたが、ドレスとメイクとヘアスタイルによって、気品のある美麗な存在にしか見えない。

ーーまるでどこかの国のお姫様だ。決して汚してはならない、崇高で美しい存在。

今日のイベントでは、男性もたくさん訪れる。こんな美しい姫、ほっておいたら無事でいられるとは思えない。

ーー守ってやらなければ。俺は1人、固く決意するのだった。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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