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ドレスアップ No.1

 

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「歩夢くん、ネクタイちょっと曲がってる」

「……マジで? あ、ほんとだ。サンキュ」

ーー今日はSNOW AWARD 2018という、スキー連盟主催のイベントの日。この1年間の優秀選手を表彰する会で、オリンピック銀メダリストの歩夢くんも、当然招待されている。

この会ではドレスコードが決まっていて、女性はドレス、男性はタキシードを着用するのだが。

歩夢くんはそんなもん持っていないと言うので、会場近くの貸衣装屋でレンタルすることになったのだ。

「……着慣れないから、しっくりこないな」

……というわけで、今その貸衣装屋でレンタルしたタキシードに着替えた歩夢くん。そして変じゃないか見てくれと私は頼まれたのだった。

そして鏡の前で私に指摘された蝶ネクタイを直しながら、鏡に映った見慣れないタキシード姿の自分に首を傾げる歩夢くん。

ーーしかし、私はというと。

(ちょっと……何あれ……や、やばいんですけど……)

普段からオーラのある歩夢くんの正装姿は、通常の300パーセント増しくらいキラキラしていて、直視したら目が焼け焦げてしまうのではないかと思えるほど、かっこよかった。

ツイストパーマにタキシードって、合うのかな?って最初は私も思ったんだけど、そんな不安もなんのその。

ボリュームのあるヘアスタイルに黒の礼装をまとった歩夢くんのその姿は、まるでアカデミー賞に出席している俳優のように、輝いていた。

正直、こんなにかっこいい人見たことない……。

もっと目に焼き付けたい、という想いもあったけれど、直接見た日には私の顔は茹でダコのように赤くなることは明白だったので、私はさっきから彼から目を逸らしがちである。

写真も撮りたいけど、手が震えてうまく撮れなそうだな……諦めよ。

ーー私がそんなことを思っていると。

「どうしたの、

「えっ!?」

「なんか、さっきからそわそわしてる」

歩夢くんが俯きがちだった私の顔をのぞき込みながら言う。

「わあ!」

突然眼前にキラキラ感半端ない歩夢くんの顔が現れたので、私は思わず驚愕の声をあげ、飛び退いてしまった。

そんな私の意味不明な行動に歩夢くんは眉をひそめる。

「……どしたの、

「なな、なんでもない!」

「……そう?」

私は首を必死に横に振った。歩夢くんはまだ訝しんでいるようだったが、タキシードの着こなしが気になるのか、再び鏡を見ながら蝶ネクタイの位置を微調整し始める。

ーーなんかもうヤバイわ……。このままじゃ、身が持たない。早めに退散しよ……。

「じゃ、じゃあ無事準備もできたようだし、私行くね!」

そう言って、そそくさと貸衣装屋の一室から出ようとする。SNOW AWARDが終わるまで、近くで適当に時間潰すか……。

ーーと、考えていた私だったが。

「え? どこ行くの、

「いや、SNOW AWARDが終わるまで適当にぶらつこうかと……」

「何言ってんの、も行くんだよ。俺と一緒に」

…………。

「えええええ!?」

想像していなかったことを言われ、私は驚愕のあまり思わず絶叫してしまう。

「あれ、言ってなかったけ」

焦る私とは対照的に、歩夢くんはいつもののんびりした口調で言った。

「き、聞いてないよー!」

「あ、そうだっけ。ま、いいや。というわけで一緒に行くから」

「え! 無理!」

速攻で拒絶する私。

こ、こんなキラキラ歩夢くんと一緒にパーティーなんて行ったら、心臓がいくつあっても持たない。

「……なんで」

「えー!? いや……歩夢くんが、その……」

「俺が、何」

「いや……その……。ーーあ! だ、だって私ドレスなんて用意してないよ!?」

咄嗟にうまい言い訳を思いついた私。ドレスコードが決まっているのだから、負担着の私は行けるはずがない。

これで歩夢くんも私を連れていくのを諦めるだろう。ーーと、思いきや。

「あー、そっか。……あ、でも」

歩夢くんが不敵に笑う。嫌な予感がした。彼がこんな風に笑うときは、私に迫ってくるか、私に恥ずかしい思いをさせるかの2択しかないから。

「すいませーん」

歩夢くんは部屋の外へ向かって、大きな声で店員を呼んだ。

「はーい、何かしら?」

すると、私たちがいた部屋に入ってくるちょっと……いや、ガチおネエっぽい店員さん。

ーーな、何をする気だ歩夢くん。

しかし、私は彼の次の一言で、一瞬で彼の思惑を理解した。

「この子に合うようなドレスってあります?」

「なっ!?」

そ、そうか。ここは貸衣装屋……。

私が着れそうなドレスなんて、きっと山ほどあるに違いない。

すると店員さんは私を頭の先から爪先までマジマジと真剣な目付きで眺め始めた。こ、怖いんですけど。

「ーーあなた」

おネエ店員が低い声で私に言う。凄みをきかせているような気がして、私は喉の奥で「ひっ」と声を上げた。

ーーそして。

「すっっっごく化粧映えしそうな子じゃないの! やりがいがあるわー! ちょっと隣の部屋へいらっしゃい!」

「え! い、いやー! た、助けてー!」

おネエ店員のごつい腕に引っ張られ、私はほぼ拉致されるような形で部屋の外へと連れ出された。

「……がんばってね」

退出間際に、そんな私を面白がっているに違いない歩夢くんの、のほほんとした声が聞こえてきた。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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