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3/11 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.2

 

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歩夢side

自分の部屋での帰りの支度を終えて、リビングにみんなで戻ってみると、と仲良さそうにソファに隣合って座る、樹里がいた。

「……げ。歩夢」

樹里は俺の姿を認めると、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「どうしたの? 樹里」

「午前中の便で帰るから、ちゃんにバイバイしに来ただけ。……別に歩夢に会いに来たんじゃないんだからね」

英樹の言葉に、つんつんした口調で答える樹里。

「……なんか樹里性格変わった?」

「歩夢への態度が前と全然違うね」

小声で話す海祝と友基のそんな声が聞こえてきた。確かに2人の言う通り、俺が樹里を完全に拒絶し、とともに雪の中を怪我してコテージに戻ってから、樹里の態度は前とは別人のように変化している。

ーーどこかあっさりしていて、それでいて強気で。俺の後を追っていた頃の、べったりとした甘い雰囲気は一切感じない。

「一人で帰るの? 足は大丈夫?」

「うん。さっきちゃんにも言ったけど、大丈夫、歩夢」

「ーーそっか。気をつけて」

俺がそう言うと、樹里は目を細くして、その美しい双眸で俺を睨む。

「ちょっと、そんな風に振った女に優しくしないほうがいいよ、歩夢。勘違いしちゃいそうじゃない? 私はもう、しないけどさ」

「え……」

ズバッっと心理を言われ、俺は虚を突かれる。ーー少し前までは、儚い可憐な美少女だった樹里とは思えない発言だった。

「ま、せいぜい覚悟しときなさいよ、歩夢は」

「ーー何を?」

「いつか私を振ったことを絶対に後悔させてやるんだからね」

挑戦的にほほ笑む樹里。その瞳には、意志の強そうな輝き。ーー俺に「行かないで」と縋る樹里は、もうどこにも存在していないようだ。

「じゃ、私は行くね。……じゃあね! ちゃん」

「うん! 日本でも会おうねー!」

「もちろん! またねー! ……ついでに歩夢たちも。達者でね」

そう言うと、樹里はソファから立ち上がり、怪我をした足を引きずりながらも、姿勢よく凛とした歩みでコテージから出ていってしまった。

「ーーやっぱり樹里変わったね、友基さん」

「失恋して一皮むけた感じ? でも今の樹里の方がいいな、俺は。……ね、英樹」

英樹に話を振る友基だったが、当の英樹は樹里が出ていった扉をぼんやり眺めていた。ーーそして。

「いい……」

間の抜けた顔をして、少し顔を赤くしながら呟く英樹。

「ーーえ! おいおい! 英樹! ああいう樹里好みなの!?」

「怒られたい……」

「え……英樹にーちゃんってドMだったの。ちょっとひくわー」

「俺はちゃんに怒られたいです!」

ぼーっとする英樹に対し、引きつった笑みを浮かべる海祝。そしていつも通りまたわけのわからないことを言う來夢。さらに「いや、あんまり人を怒る趣味は無いんで……」と、來夢に引き気味に言う

ーーなんだかんだで、結局俺の周りはUSオープン前となんら変わらない。

今回の樹里の件やら、俺の気持ちがもう溢れそうなことやら、いろいろあって、ファイナルが終わったらに告白しようと思っていたのに。

結果的に、クソガキ共(海祝以外は俺より年上だけど、この表現が1番しっくりくる)に邪魔されて失敗。

ーー一世一代の決意をぶちまけようとした瞬間を台無しにされた俺は、もう気力がなくなっていた。だって、告白だぞ。「好きだ」って、に言うことだぞ。

そんなこと、気持ちの準備をしてタイミングを見計らって、よし言うぞ!という勢いがなければできない。

次に俺がそんな風に覚悟を決められるのは、一体いつになるのだろうか。

「ーーん? どうしたの、歩夢くん」

みんなと先程の樹里の魅力について談笑していた。そんな彼女をぼんやりと見ていた俺の視線に、気づいたらしい。が首をかしげて俺に尋ねる。

「いや……」

ーーもう言っちゃえばいーのに、にーちゃん。

不本意だけど、昨日の海祝の言葉が蘇ってくる。

そう思う時は、多々ある。ーーもう言ってしまえ。いつまでの一挙一動に振り回されているつもりだ。情けないぞ、歩夢。

ーーだけど。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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