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3/11 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.1

 

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USオープンファイナルが歩夢くんの優勝で幕を閉じた、その翌日。

午後の便でみんなと日本へ帰国する私は、リビングで忘れ物がないかをチェックしていた。他のみんなは各自の部屋でそれぞれ荷物の整理を行っている。

……昨日歩夢くんとのキスをみんな見られてしまったことは、死ぬほど超絶絶望的に恥ずかしかったけれど、あのあとみんなはそんな私をからかうこともなく、何事も無かったように接してくれたから、助かった。

來夢くんだけは「歩夢とキスしたの!?」としつこく聞いてきたけど。でも恥ずかしくて「してない!」と叫んでおいた。

そして私がキッチンに忘れ物が無かったことを確かめているときだった。

コテージのインターホンが鳴ったので、私はドア付近に駆け寄る。ここに来そうな人間と言えば、恐らくーー。

「樹里ちゃん!」

扉を開けると、私の思った通りの人間がそこにいた。私に向かって微笑む樹里ちゃんを、室内へと招き入れる。

樹里ちゃんはまだ少々足は引きずっていたが、移動出来ないほどではないようだ。

「あ、よかったー。ちゃん以外の奴らはいないのね」

リビングを見渡し、ちょっと意地悪く笑いながら樹里ちゃんが言い、私の方を見てこう続けた。

ちゃんには帰る挨拶したかったけど、歩夢にはまだあんまり会いたくないからさ。午前中の便で私は帰るから、もうあんまり時間はないんだけどね」

「え? その足で一人で飛行機大丈夫?」

「うん。テーピング巻いてもらったし、痛み止めももらったから、そんなに痛くないの。まあまた日本で病院に行き直すよ」

「そっか、そんなに酷くないならよかったよ」

そんな会話を私としながら、樹里ちゃんはソファに腰掛ける。そして膝の上に肘をつき、手のひらに顎を乗せて私を興味深そうに眺めた。

「歩夢のこと……完全に吹っ切るのにはまだまだ時間がかかりそうなんだけどさ」

「ーーうん」

私も樹里ちゃんの隣に腰を下ろした。

「ま、いつかあいつを見返してやるような女になってやるわ」

そう言うと、樹里ちゃんは美しく自信ありげに笑った。

ーー綺麗だ、と思った。もちろん彼女は出会った時から、至上の美少女だったけれど。

今の一皮むけた樹里ちゃんは、活き活きしていて少しの事ではぶれないような強さがあって。彼女の第一印象であるか弱い少女的な魅力よりも、今の強気で誰にも屈服しないような動的な魅力の方が、断然惹かれるものがある。

「ーーまあ、私のことはどうでもいいの。ちゃんは?」

「へっ……? 私?」

「歩夢にはもう言ったの?」

「何を?」

「好きだって」

………………。

「えええ!? な、なんで!?」

樹里ちゃんの思いがけない言葉に、しばし硬直したあと大声を上げる私。

「え? だってそうなんでしょ?」

「なななななんで!?」

「だって、私をおぶって雪の中を歩いてる時に……あ、まさか。覚えてないの? 雪の中歩いている時に、私と話したこと」

「え……うん。あの時はわりと限界で……。樹里ちゃんをおんぶしてからの記憶、ほとんどないんだ。気づいたらコテージの中に倒れてた」

「……えー……」

樹里ちゃんは何故かがっくりと肩を落とすと、私を横目で少し睨むように眺めた。

「いい加減自覚しなよー……、ちゃんは」

「自覚……?」

何をだ? ーー樹里ちゃんがさっき言ってたように、私が歩夢くんを好きってこと……なのか?

ーー私は、歩夢くんのこと……?

確かに歩夢くんはかっこいいし魅力的だし、よくドキドキさせられる。ーーだけどそれは彼が客観的に考えても魅力があるからのような気がして。

もちろん歩夢くんのことは好きだが、私は一人の男性として、彼に恋をしている……のだろうか?

ーー見た目も生き方も性格も、全てがかっこいい歩夢くんだから。

私は恐れ多くて、歩夢くんを好き……なのかが、どうしてもよくわからない。

それにそんな歩夢くんが私を本気で相手にする姿はなんて、現実離れしすぎて想像がつかない。

ーーそういえば、昨日キスしたあと、歩夢くんは私に何を言おうとしていたのだろう。みんなが覗き見していたせいで、曖昧になってしまったけれど。

「ーーもう、焦れったいなあ。歩夢だってねえ」

「え?」

「…………。なんか腹立つからやっぱり言わない。自分で確かめればー?」

いたずらっぽく笑って樹里ちゃんが言う。今までの会話の流れから、私が歩夢くんを好きで、歩夢くんも私のことを好きって言いたいのかな、とも思ったが。

ーーやっぱりどうしてもありえない気がして。私は「まさかね」と、心で独りごちる。

と、私と樹里ちゃんがそんな会話を繰り広げていると。

「あーやっと終わったぜー。友基手伝ってくれてありがとな」

「來夢は部屋散らかしすぎなんだよー、もう」

「英樹にーちゃん、村上のみんなにお土産買ったー?」

「げ、忘れてた。空港で買うか」

「ーーあれ、樹里?」

各自の部屋で帰り支度を終えたらしいみんなが、リビングに入ってきたのだった。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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