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3/10 コロラド州 ベイルリゾート ベイルヴィレッジ No.3

 

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男が女にキスをする理由なんて、一部の女たらしを覗いたら1つしかないじゃないか。

「ーーわからないの? は」

「わ、わからないよ……! 歩夢くんみたいにかっこよくてスノーボードでも世界一になれちゃうような人が……私にそんなことする理由なんて」

「ーーはぁ?」

なんかよくわからないけど、 の中では俺は相当すごいやつとして位置づけられているらしい。そして自分とは釣り合わないような人間だと、 は考えているようだ。

ーーなんだそれ。俺だってボードを脱げばただの19歳のその辺の男と一緒だぞ。

の方こそ、その年令でフォトグラファーとしてそこそこ成功してて、語学にも堪能で通訳もできる上に、かなりの美形という、ハイスペック女子のくせに。

まあ、 とそんな思惑なんてどうでもいい。ーーそんなことより。

「あのさあ、

「な、何?」

「いくらなんでも鈍すぎるんじゃないの」

「ーーえ。何が」

きょとんとした顔で首を傾げる。ーーマジこの鈍感さは奇跡的なレベルだなおい。

「ーー俺が。 を面白がってからかったり。……キスしたりするのは」

「するのは……?」

いまだ全くわかっていないらしい、気の抜けた顔をている。

ーーでももうそんなこと知らね。もう無理なんだよ、言わないまま過ごすのは。

君が俺の目を離した隙に、どこかに行ってしまうんじゃないかとか、他の奴には取られてしまうんじゃないかとか。そんな不安に振り回されるのは、もう面倒なんだ。

それに、俺に拒絶されても全力で想いを伝えてきた樹里。彼女の想いを受け入れられなかったのだから、 に気持ちを伝えないのは何かダメな気がして。

ーー例え、このあとどうなろうとも。

「俺がーーそんなことするのは」

「うん……?」

のことが好「ぶえっくしょい!」」

俺が一世一代の告白をしようとした、まさにその瞬間だった。

『ーーえ? 』

やたらとおっさんくさいくしゃみが、背後から聞こえてきたので俺と は顔を見合わせてから、後ろを振り返る。

ーーすると、そこには。

「ちょおっとおおお! 英樹にーちゃん! せっかくいいところだったのになんでくしゃみ!?」

「え、いや……ごめん……寒くてさー。はは」

「はは、じゃないから! せっかく俺が來夢を取り押さえて口と耳も塞いでたのにー!」

「むぐぐ……! ぷはー! ちょっ! なんなんだよ! お前らわー!」

俺たちが座るベンチの少し後方に、しゃがみこんでこちらを見ていたらしい海祝と英樹、友基と來夢の姿が。友基の話から察すると、來夢は何もわかっていないようだが。

「ーー何してんの」

わたわたと騒いでいる4人に向かって、俺は目を細めて睨み、怒気をはらんだ声で言う。すると、海祝が慌てた顔をする。

「え!? い、いや、別に……。ねー、友基さん?」

「たまたま通りかかっただけだよ」

海祝の言葉に、いつも通り人懐っこそうな笑みを浮かべ、落ち着いた声で答える友基。ーーいや、そんなわけないだろ。

「なんか歩夢と ちゃんがいい雰囲気だから覗き見しようぜって友基と海祝が……」

「ちょっとお! 英樹にーちゃんは余計な事言わない!」

「いい雰囲気って何!? 俺が友基に押さえられてる間に ちゃんに何やったんだ歩夢!」

ーーやっぱり隠れて俺たちのやり取りを見てやがったのか。

「まあ、俺たちのことは気にしないでよ。ーーというわけで、続きをどうぞ」

「ーーできるか」

ニヤニヤ笑う友基に俺は怒りの声を上げる。

「えー、いーじゃんもうさー。言っちゃいなよーにーちゃん」

「ーーあ?」

「……あ、いえなんでもないです」

茶化す海祝にギロリと冷たい視線を浴びせると、びびったらしい海祝が逃げるように俺から目線を外した。

「ーーっていうかさ。みんないつから……見てたの?」

今まで俺たちのやり取りを驚きながら見ていた が恐る恐る尋ねる。

「歩夢が のピアスを外してるあたりからかなあ?」

すると友基が事も無げに答えた。ーーっておい。ピアスを外しているあたりからってことは。

「えええええ! じゃ、じゃあ! わ、私と歩夢くんが……キキキキ、キスしてるところ、も……!?」

「あはは。結果長くしてたよねー」

「……! や、ややだーー! もうーー! 見ないでよーーー!」

顔を真っ赤にさせて が絶叫する。そしてこの場にいることに耐えられなくなったらしく、 は脱兎のごとく店内へと走り去ってしまった。

「ーーえ」

取り残される俺。そんな俺の周りには、俺の一世一代の告白を、邪魔した四人の男達。

「あーあ。 行っちゃったじゃん。もう、英樹にーちゃんのせいだからね」

「そうだよー。英樹がくしゃみさえしなければ全部うまくいったのにさ」

「だからごめんってば」

「ちょっと待て! 今 ちゃん歩夢とキスしたとか言ってなかったか!?」

「えー、言ってないよー、來夢さん」

「いや! 絶対言ってた! どういうことだよ歩夢!」

「もう〜。來夢はめんどいから黙ってて」

「なんだと!?」

4人の会話が、呆然としている俺にぼんやりと耳に入ってくるが、反対側の耳からぬけていく。

俺はあまりのショックに、ベンチに座ったままがっくりとうなだれた。

「あ……うん。なんか、ごめん」

そんな様子を見てさすがに罪悪感を感じたのか、友基が俺の方をぽんぽんと叩いて謝罪してきた。

ーーしかし。

「お前ら……みんなキライ」

俺は少し泣きそうになりながら、小さくそう呟いた。





ーー結局。

そのあとしばらくしてから全員で店内に戻って、祝勝会の続きをしたのだけれど、來夢はうるさいわ、 はみんなにキスを見られたショックで魂が抜けたようになっているわで、おかした雰囲気の会になってしまった。

そして今度こそ言おうと思っていた、俺の気持ちは、また伝えるタイミングを逃してしまったのである


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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