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3/10 コロラド州 ベイルリゾート ベイルヴィレッジ No.1

 

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「ちょっとサーモン多すぎない……?」

「ーーやっぱり?」

困り気味に言う友基くんに、私は苦笑を浮かべて答える。

テーブルの上に乗せられた大皿の上には、橙色の艶やかな刺身が所狭しと敷き詰められていた。その量は、私たち6人で食べ切るには少し辛い作業になりそうな予感がする。

ーーUSオープンのファイナルが行われた日の夕方。

表彰式やシャンパンファイトも終わり、私の体調も無事復活したので、私たちはコテージ近くの日本食レストランに、歩夢くんと來夢くんの祝勝会を開くために訪れていた。

私は病院からレストランに1人直行で、1人だけ早めに着いてしまったので、先にみんなが食べそうなものを注文していたのだけれど。

ーー歩夢くんはサーモンが好きだよな。優勝したし試合のあとだからいっぱい食べるよね? あ、友基くんもそういえばサーモン好きだっけ。じゃ、多めに注文しようっと。

という感じで、私の感覚では気持ち多めのサーモンくらいだったのだけれど、どうもここのレストランは料理にボリュームがあることを売りにしているところだったようで。

その結果、テーブルの上が鮭だらけになったというわけである。

あ、ちなみに樹里ちゃんも誘ったのだけれど、「歩夢のことはお祝いしたいけどまだちょっと気まずいわ。でもありがとう」と苦笑を浮かて断られてしまった。ーーまあそりゃそうか。

「おいしそうだけど、食べ切れるかなあ?」

テーブルにつきながら言う海祝くんに、傍らに立つ私は申し訳なさそうに言う。

「……ご、ごめん。歩夢くんがいっぱい食べるかなあって……」

「ま、いーじゃんいーじゃん! 食べようぜ!」

海祝くんの隣に座る來夢くんが、機嫌良さそうに私を慰める。歩夢くんに負けた悔しさはあると思うが、彼にとっては久しぶりの表彰台。嬉しくてたまらないだろう。

「……、俺のためにサーモン注文してくれたの?」

すると、みんながテーブルについて今日の結果やらサーモンについてわいわい言っている中、私の隣に立つ歩夢くんが小声で私に呟いた。

「う、うん」

「ーーそか。ありがと」

至近距離でいつものように私をじっと見つめたかと思うと、頭を撫でるようにぽんぽんと叩く歩夢くん。

不意打ちだった上に、ちょっとこういうのは久しぶりだった気がして、耐性のない私の頬はすぐに赤くなってしまった。

私は照れた顔を隠すように前髪を触って俯く。そんな私には構わずに、歩夢くんは海祝くんの向かいの英樹さんの左隣に座った。

、こっち」

そして歩夢くんが私を手招きするので、それに素直に従い、私は彼の左の椅子に腰掛ける。

「じゃあ歩夢の優勝と来夢の準優勝にーーかんぱーい!」

友基くんの音頭のあと、みんながグラスを合わせた音が鳴り響く。

「いやー、歩夢はやると思ってたけど、来夢もやるじゃん!」

英樹さんが來夢くんを少しおちょくるように、だが嬉しそうに弾んだ声で言うと、来夢くんは髪をかきながら照れたように微笑んだ。

「いやー……でも今回は歩夢に勝てると思ったんだけどなー! 2位は嬉しいけど悔しいぜ!」

「……でも正直危ないと思ったよ。來夢の2本目がなければもっと楽に勝てたのにさ。余計なことしてくれたわ」

「マジか! よっしゃー! 次は勝つからな!」

そんなことを言いながら、笑い合う2人。お互い気の許した友人であり、そして油断のできないライバル。

同じ土俵に立つ2人でしか繋ぐことの出来ない絆が尊くて、私は少しの感動を覚える。

こういう男の子同士の関係っていいよなあ。ちょっと羨ましい。

私が二人を見て微笑んでいると、日本のテレビ局の取材が入ってきた。

「やっと優勝出来ました。ありがとうございます」

グラスを高く掲げて、照れ笑いを浮かべて歩夢くんが言う。ーーそして、去年怪我した壁の恐怖心はもうない?という質問には。

「そうですね。もうほぼないというか。全くないですね。ーー順調に回復したっす」

そういって屈託なく微笑む歩夢くんの右耳には、いまだゴールドのピアスのが輝いていた。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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