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3/10 コロラド州 ベイルリゾート 病院 No.2

 

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「ーーそのピアス」

が右耳にしていたのは、俺が今しがたまで付けていたはずのシルバーのピアス。そした左耳には、俺が先日プレゼントしたゴールドのピアスがつけられていた。

ーーそれって、つまり。

「1個、歩夢くんのと交換しちゃった」

今は見えないけれど、俺の右耳にはのゴールドのフープピアスが付けられているということだろう。

「ーーお守りだよ」

無邪気に笑って名前が言う。

が身につけていたピアスが俺に。俺が身につけていたピアスがに。

右耳がやけに暖かく感じられた。気のせいかもしれないけれど、の温もりがそこには存在している気がした。

ーー君も俺の痕跡を、その右耳に感じてくれているのだろうか。

「ーー私は会場には行けないけど。ちゃんといるから、私。歩夢くんのそばに。……いるからね。応援してるから」

の大きな瞳は、俺を強く優しく見つめていた。それはきっと、俺を深く信頼している証。

「……大丈夫な気がしてきたわ」

俺は笑って、少し冗談交じりに言った。眼前のは俺につられたのか、くすっと小さく笑う。

しかしそんなの表情に、いつもよりやはり覇気がない気がした。ーー長居して疲れさせちゃダメだよな。

「じゃ、そろそろ行くね俺」

「ーーうん」

俺は立ち上がりながら言う。そしてに背を向けて歩き出す。

部屋の扉に手をかける直前に、俺は「あ、」と小さく言って立ち止まると、振り返った。

そして、を見つめる。不敵に笑って。

「ーー祝勝会は来れるかな、も」

遠回しの勝利宣言。は一瞬驚いたような顔をしたけれど、花が咲いたように破顔した。

「ーーうん!」

そして力強く彼女は頷いた。





の病室を出ると、松葉杖を持った樹里が、病室の扉の横の壁に背を付けて、立っていた。全く予想のしていなかった俺は、硬直する。そういえば樹里も昨日の夜からこの病院にいたんだった。

「ーーそんなに驚かなくてもいいじゃない」

ちょっと棘のある言い方をする。少し前の、俺を信仰するかのような樹里とはえらい違いだ。

だけど今の樹里の方が、なんとなく本音を言い合えそうな気がした。

ちゃんの様子を見に来たら、歩夢が来てたからここで待ってたの。ーー扉、ちょっと開いてたよ。会話筒抜け。不用心だね」

「ーーえ」

じゃあ俺が怖いって言ってるのとかピアスを交換しているくだりとか、全部樹里は聞いてたってことか。

ちょっと……いや、かなり恥ずかしくて、俺は樹里から目を逸らした。

「ーーあんな話するんだね、ちゃんと」

すると少し寂しそうに樹里が言った。ーー樹里には、俺の弱い部分を1度も見せたことがない。見せようなんて、思ったこともなかった。

「私には……歩夢のそんなところを受け止める器なんてない。わからないもの、世界が違いすぎて。ーー普通の幸せが欲しい私には」

樹里の言葉に俺は驚いて、思わず彼女の顔を見た。樹里は寂しげに微笑んでいた。

ーー歩夢のためならなんでもする。どんなことだってする。幼い頃からそう言い続けてきた樹里の。

それは初めての敗北宣言に聞こえた。

「私は……歩夢が今右耳につけてる、あの子のピアス一つにすら、勝てる気がしない」

樹里は微笑みながらも、瞳を潤ませていた。そんな樹里を見て、俺の心に浮かんだのは。

ーー今までこんな俺に好意を抱き続けていてくれた、感謝の気持ちだった。

「ーー樹里」

「何」

「今まで、俺を好きでいてくれてありがとう」

「え……」

俺の言葉に樹里が目を見開いて俺を凝視する。そんな樹里に向かって、俺は柔らかく微笑む。

「いろいろあったけど、楽しかった。ーー本当に、ありがと」

「…………」

樹里はそんな俺から目を逸らした。何を思って、どんな顔をしているかはわからない。

俺はそんな樹里を残して、いよいよ戦地へ赴こうと歩み始めた。

すると、しばらく俺が歩いた後。

「ーー私こそ。私を夢中にしてくれて……恋を教えてくれて……ありがとう、歩夢。ーーずっと。ずっと、応援してる……からね!」

背後から、樹里が少し震えた声で、最後は張り上げるように言った。俺は背を向けたまま、後ろ手で手を振る。

ーーさあ、行くか。恐怖を倒しに。全力で。







ピアスの貸し借りは衛生上ちょっとアレなんで、つける前に主人公ちゃんがこっそり除菌してるってことにしてください(笑)。まあ二人はもうキスしてるからあんまり気にしなくていいよね!

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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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