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3/9 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.6

 

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「ーー大丈夫?」

「大丈夫……とは言いきれないかな……。でも……救急車ってほどじゃ……な、い」

途切れ途切れに言う。多少のことなら、の性格上たぶん大丈夫と言うから、わりと深刻な状態だと考えていい。

「ーー救急車の方がいいんじゃないの」

「いや……マジそれは結構、です……」

ちゃん! どんな状態!? どこか痛い!?」

足を引きずりながらの傍らにやってきた樹里が、涙を流しながら尋ねる。

「……頭が痛い。あとすごく……寒い。それくらい、です……」

「ごめんね……ご、ごめん……! 私のせいで……!私が手伝わせて、足なんか怪我したから……!」

「樹里ちゃん……の、せいじゃ……」

が何やら言いかけたが、唇が震えてうまく言葉にならないようだ。

ーーだから。

「ーー樹里のせいじゃないよ」

俺が代わりに言ってやった。

「歩夢……?」

溢れる涙を拭いながら、俺を見る樹里。

「樹里のせいじゃない。落し物をしたのも怪我をしたのも、仕方ない。ーーそれに」

俺は寝そべったまま虚ろな目で俺を見つめるを見つめ返しながら、こう言った。

「私がやりたくて勝手にやったことだ。ーーって、が言ってる」

そう言うと、は微かに口元を笑みの形にした。樹里は涙の処理も忘れ、驚いたように俺を見ていた。

「ーーね、とにかく。二人とも病院は行った方がいいんじゃないの?」

「調べたらすぐ近くに夜間もやってる病院あったよ」

友基と英樹の言葉に、俺は頷く。

「ーー俺が連れていく」

の顔を見つめ続けながら俺は言ったが、はゆっくり首を横に振った。

「だめ。ーー歩夢くん……あと來夢くんは……残って」

脆弱な声で言う。明日のファイナルをふまえてのことを言っているのだろう。ーーだけど。

「いやだ。俺が行く」

こんな状態のを他のやつに任せるのは、嫌だった。何より、心配すぎて落ち着けるわけがない。

ーーすると。

「だめっつったら、だめ。絶対ダメだから」

弱っているくせに、どこにそんな力が残っていたのかと思えるほど、やたら強い口調でが言う。暖かいコテージに入って少し回復したのかもしれないが。

「ーーやだ」

「だめ」

「俺が行く」

「だめっだってば……! 私のせいで 明日に影響させたくないの……!」

するとしつこく食い下がる俺にとうとうブチ切れたらしいが、俺を睨みつけながら、怒りの声をぶつけてきた。

さすがに俺は口を噤む。

「ーーごめんね、ファイナル前に心乱すようなことしちゃって」

するとが先程とはうって変わり、心底申し訳なさそうな顔をした。

「いや……」

「ーーだけど私は病院に行けば大丈夫。瀕死ってわけじゃないから。それより歩夢くんは明日に備えて」

「…………」

「ーーねえ、なんのためにここにいるの?」

衰弱し切ってるくせに、やたら瞳に強い意志を込めて言う。そんな目をされたら、俺は言うことを聞くしかない。

「ーーわかった。海祝、友基、英樹。2人を頼むよ」

「おっけー」

「任せとけよ〜」

「樹里は歩ける?」

友基がを抱えあげ、海祝が樹里に肩を貸す。英樹はスマホで電話をしだした。どうやらコテージの管理人にスノーモービルを出してもらうように依頼しているらしかった。

ーーそして、病院で診察を受けた結果。は軽い低体温症と手足の霜焼けで、樹里は重めの捻挫だったとのこと。

はそのまま一日入院。樹里もコテージで1人になるのは危ないとのことで、一緒に病院で夜を明かすことになったとのこと。

が目の前で倒れ込んできた時は、どうなることかと思ったけれど、大したことがなかったようでよかった。本当に。

ーーだが。

この様子では、明日のファイナルのとき、がハーフパイプの会場に赴くことは無理だろう。仕方の無いことだが。

という後衛がない舞台で、去年重傷を負わされたあの左側の壁の悪魔を、俺は倒すことができるのだろうか。

ーー今日のの行動は、いかにもらしくて、樹里の状況を考慮すると、そういう風にするしかなかっただろうなと、俺は納得している。

しかし一つだけ。一つだけ、俺はに対して苛立ちを覚えていた。

君が危険な目に遭うことが。そして俺が命をかけて滑るそばに、それを見守る君がいないことが。

それらが、どれだけ俺のメンタルに影響するのか、君がほとんど分かっていないことに対して。

だけど、を病院に連れていくことを俺が強行した場合に、明日のファイナルでもし満足のいく結果が得られなかったとしたら、は自分を責めてしまうだろう。

自分が歩夢くんに心配をかけたからだ、と。そんなことくらいで大きな影響はないのに。しかし少しでも俺のコンディションを乱すことになったかもしれない可能性があるといいうだけで、は深く後悔する。

それだけは避けたかったから、俺はの言う通りに、海祝たちに病院行きを任せたのだった。

ーーだけど。

に言われた通り明日のために早めにベッドに入ったけれど、どうしてもあの左側の壁への恐怖感が拭えないまま、俺は眠りについた。







珍しく歩夢くんと主人公以外のsideの話でした。流れ上どうしても樹里sideを入れたかったです。

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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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