記事一覧

3/9 コロラド州 ベイルリゾート 雪原 No.3

 

Your name






side

いつの間にか日は完全に沈んでいて、少し離れたコテージの明かりと、雪の白さ以外、辺りは暗闇に包まれていた。

スマホの時計が示す時間から考えると、私と樹里ちゃんはすでに1時間ほどはネックレスの探索を続けていた。

しかし当初思った通り、この白い雪の中に紛れ込んだシルバーのネックレスを探し当てるのは、至難の業だった。しかも日没を迎えてしまった現在は、捜索開始当初よりも格段に難易度が上がっている。

飛ばされただけなら、そんなに深く埋まっているわけはないんだけどな。軽いから、思ったよりも遠くに飛んでいってしまったのかも。 よし、もうちょっと範囲を広げてみよう。

そんな風に考えた私が、さらにコテージから離れた場所を探そうとすると。

「ーーねえ、もういいよ」

「え……?」

傍らの樹里ちゃんが、暗い声で言った。

樹里ちゃんはまだ私と話すのが気まずいようで(何故かはいまだにわからないが )、私とはほとんど会話らしい会話もせずに、ずっとネックレス探しをしていた。

「もういいよちゃん。こんなに探しても見つからないなら、もう無理なんだよ」

「…………」

「寒いでしょ? 夜になって冷えてきたし……。このままじゃ風邪ひいちゃうよ」

探すのに夢中であまり感じていなかったが、樹里ちゃんに言われて自分が極寒の地に佇んでいることに気づく。

頬を突き刺すような寒風。雪の中を探ったためか、ブーツの中や手袋の中に入り込んだ雪。

指先も足先も感覚がないほどに冷えているのを実感した瞬間、全身に悪寒が走り、私は身震いした。

確かに、これ以上あまり長い時間ここにいるのは、ちょっと危険かもしれない。

ーーだけど。

「ーー樹里ちゃんはまだ諦めないんでしょ?」

「え……」

「樹里ちゃんは、私が帰ったあとに1人で探す気でしょ」

私が樹里ちゃんをじっと見つめて言うと、彼女はバツ悪げに目を逸らした。

「やっぱり。ーーこんな暗くて寒い中1人で探すなんて、危ないよ」

「ーーごめん。やっぱり諦められなくて……」

樹里ちゃんは目をそらしたままだったが、心底申し訳なさそうに呟いた。

「うん、だからもうちょっと付き合うよ。私なら大丈夫。神経図太いから風邪ひかないから。あはは」

私が手伝うことを樹里ちゃんが重く受け止めないように、軽口を叩く。そして先程思いついたように、少し離れた箇所を捜索しようと歩きだそうとした。

ーーすると。

「ーーちゃんが」

「……?」

ちゃんがもっと……嫌な奴だったらいいのに」

それはまるで独り言のような言い方だった。ぼそっと呟いたそんな樹里ちゃんの言葉の意図が私にはまったく分からず、私は眉をひそめる。

しかし樹里ちゃんは私の方を既に見ておらず、雪を漁って一生懸命ネックレスの行方を探していた。

ーーなんだろ。ま、いいか。

そして私はネックレスを探そうと歩きだそうとした……その時。

「わっ!?」

踏み出した場所の雪が崩れ、私は豪快に転倒する。そして頭から雪を被り、体の半分ほどが埋もれてしまった。

「ーー! ちゃん! 大丈夫!?」

すると心配したらしい樹里ちゃんが駆け寄り、転んだ私の手を取って身を起こすのを手伝ってくれた。

「う、うん。大丈夫。今日昼間わりと暖かかったから、雪が緩いとこあるかも……」

言いながら樹里ちゃんの力を借りて立ち上がり、頭の雪を払い落とす私。ーーしかし、その時。

「ん……?」

目の上で何かがキラリと光った気がした。眼球を上に向けると、目深にかぶったニット帽の縁に、何かが引っかかっているのが見えた。

私はその引っかかった何かを手に取り、確認する。ーーその何かとは。

シルバーのチェーンに、ダイヤモンドが散りばめられた雪の結晶のモチーフのペンダントトップ。

こ、これは。

「じゅ、樹里ちゃん! あ、あった! あった!」

あまりの驚きと喜びから、私はその場で飛び跳ねながら叫ぶ。

「え!?」

「あったよー! これ! 樹里ちゃんの!」

私は持っていたネックレスを樹里ちゃんの手のひらに押し付けるように渡す。ネックレスを確認した樹里ちゃんの顔が、みるみるうちに輝いていく。

「ほ、ほんとだ! これ! これだよ! 探してたの!」

「やったー!」

ちゃん! ありがとう! 本当に!」

今までの苦労があるから喜びもひとしおで。私たちは狂喜し、手を取り合ってその場で飛び跳ねる。私も樹里ちゃんも満面の笑みを浮かべ、少し前までぎくしゃくしていたことなど、どうでもよくなってしまった。

ーーしかし。

「ーーえ。わっ!?」

「きゃあ!」

飛び跳ねていたせいか、足元の雪が大きく崩れ落ち、私たち2人は雪と一緒に雪崩のように滑り落ちる。積雪が多かったせいで気づかなかったが、ここは本来は緩やかな傾斜のある斜面だったようだ。

「いたた……大丈夫? 樹里ちゃん」

「う、うん」

雪の中に半分埋もれた私たち2人。私は先程と同じように雪を払い除け、立ち上がる。

暗くて分かりづらかったが、数メートルほど斜面を滑ってしまったらしい。そして思ったよりも離れた箇所にあるコテージの光。ネックレスを探しているうちに、いつの間にかちょっと離れた場所まで来てしまったようだ。

戻るのに10分くらいはかかりそうだ。ちょっと面倒だな。ーー私がそう思っていると。


いただけると感激です→ web拍手 by FC2

前のお話   次のお話

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

名前変換

 

Your name