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3/9 コロラド州 ベイルリゾート 雪原 No.1

 

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私が樹里ちゃんの元へと辿り着くと、樹里ちゃんは雪の上に膝立ちして、手で雪を掘り起こしていた。

ーー何をしているのだろう。

「樹里ちゃん……?」

私が彼女の背後から声をかけると、樹里ちゃんはびくっと身を震わせて顔だけ私の方へ向けた。

「……ちゃん」

樹里ちゃんは気まずそうな顔をした。彼女と話すのは、この前私が歩夢くんにピアスを買ってもらった帰りに会った以来だ。

あの時「ちゃんにひどいことを言っちゃう」と言われた私。樹里ちゃんにとってみれば、私とはいまだに会話をしたくないのだろう。

ーーだけど。

「ねえ、どうしたの?」

樹里ちゃんのただならなそうな雰囲気は、気まずいとか話したくないとかそんなことを気にしている場合じゃない。私は臆せずに彼女に尋ねる。

「ーーちゃんには関係ないよ」

私から顔を逸らし、再び雪を掘りながら冷たい口調で言う。私はそんな彼女の眼前に歩んでかがみ、じっと見つめてこう言った。

「関係なくてもいいよ。ーー困ってるんじゃない? 何か」

そしてちょっと語気を強めて私は言う。すると探す動作をやめた樹里ちゃんは眉尻を下げて、ちょっと泣きそうな表情になった。

「ーー落としたの」

「落とした?」

「首に付けてたネックレス……。コテージから外に出た時に、首に違和感があったからつけ直そうとして、一旦外したら……ちょうど強風が吹いてきて、飛ばされちゃって」

樹里ちゃんが弱々しく言う。彼女の様子から察すると、とても大切なもののようだ。

「どんなネックレス?」

「シルバーとダイヤモンドの雪の結晶の……だから雪に紛れちゃってるみたいで……」

「シルバー……」

辺りはコテージを除いてほぼ1面銀世界。しかも、すでに日は落ちかけている。

こんな状況で、小さなネックレスを探し出すのは至難の業だ。しかもすでに樹里ちゃんは長時間探しているようで、体が冷えきっているのか時おりぶるっと震えている。

「樹里ちゃん。ちょっと見つけるのは難しいかも……」

「わかってる。ーーでもね」

すると樹里ちゃんは私を真剣な面持ちで見つめ、震える唇で苦しそうにこう言った。

「ーー歩夢にもらったものなの」

そう言うと、再び樹里ちゃんは雪を手で掘り起こす。彼女の手袋は防水仕様のようだが、あんなに必死に雪をかき続けているのなら、きっと内側はびしょ濡れだろう。

ーーそうか。それなら。

樹里ちゃんは見つけ出すまで絶対に諦めないだろう。いくら身体が凍えたとしても。

「じゃあ私はこっち探すね」

私はそう言うと、樹里ちゃんから少し離れた場所の雪を掘っていく。完全に日が落ちる前に、見つかればいいのだが。しかしシルバーか……。なにか色が入っていれば、探すのも楽なんだけどなあ。

私がそんなふうに考えていると。

「なんで……? ちゃん……」

少し離れた樹里ちゃんから、掠れた声が聞こえてきた。私は振り向きもせずに、ネックレスを探しながら答える。

「2人で探した方が見つかるじゃん」

「で、でも……。寒いし、大変だし……ちゃんには関係ないでしょ?」

「まーいいじゃんいいじゃん。大事なものなんだからさ」

「…………」

押し付けがましくなるのが嫌で、私は軽く笑いながら言う。すると樹里ちゃんからは、しばらく何も返答がなかった。その代わりにザクザクと雪を掘る音が聞こえてきた。

しかししばらく経ってから。

「ーーありがとう」

その声は小さくて、雪を掘る音にかき消されて危うく聞き逃すところだったけれど、確かに樹里ちゃんの声でそう聞こえた。

ふと樹里ちゃんの方を見ると、樹里ちゃんは私に背を向けてネックレス探しに勤しんでいたけれど、私は彼女の言葉が嬉しくて、自然に笑みがこぼれた。

そして再び、雪の中に紛れる樹里ちゃんの宝物を探し始めた。







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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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