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3/9 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.2

 

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歩夢side

「だったら俺のことは諦めてくれ」

俺のためならなんでもするという樹里の言葉。

そしてそんな樹里をじっと見つめて、「本当になんでもしてくれるの」と尋ねた俺。

俺の問いかけに、思惑通りにいったと思ったらしく、艷美な微笑みを俺に向ける樹里だったが。

ーーきっと俺が次に言った言葉は、彼女の想定通りでは無かったのだろう。

樹里は浮かべていた笑みを一瞬で崩し、呆然とした顔をした。同時に彼女の俺を抱きしめる腕の力が緩んだので、俺は離れた。

「ど、どうして……?」

そして樹里は信じられないといった表情を浮かべる。

「ーー前にも言った通りだよ。俺は樹里の事はもうなんとも思ってないし、俺が好きなのはだから」

「で、でも! ちゃんは歩夢を好きなわけじないんだよ! 歩夢は報われないんだよ!」

淡々と言う俺とは対照的に、激しく感情的に主張する樹里。樹里のこんな姿は初めて見た気がする。いつも俺の前ではしとやかで一途な女を演じていたから。

「ーーそれ、から聞いたの? 本人が、そう言ったの?」

「……そ、そうだよ」

俺の問いかけに、樹里は斜め下に視線を落として答える。ーーあ、やっぱり。

「樹里さ、昔から変わんないよね」

「え……?」

「嘘つく時、下の方見るの」

「あ……」

樹里はしまったという顔をし、しばらく黙った。

「で、でも! 実際そうかもしれないじゃない!」

嘘の弁解はなかったが、まだその可能性を主張する。ーー確かに、樹里の言う通りだ。俺だってそれが怖い。

俺の想いを知ったが、俺から離れてしまう可能性が。

ーーだけど。

「俺はそれでもいい」

「えっ……!?」

「それでもいいんだ」

こんな稀有な美少女になんでもするって迫られているくせに、可能性が五分五分の女の子への自分の想いに賭けるなんて。恐らく俺は少数派だろう。この状況を知った世界中の男達から、嘲笑われるかもしれない。

俺って実はMなのかな。そう思いついて、ちょっと笑いそうになった。

「ーーなんで! どうしてそんなにちゃんが……!」

声を震わせて、俺を責めるように樹里が叫ぶ。感極まったのか、瞳の端には涙が少し溜まっていた。

「ーー樹里はさ」

「な、何!」

「俺じゃないやつに「なんでもする」って言われたら、そいつを取るの?」

俺の問いかけに、樹里は一瞬虚をつかれたような顔をした。そしてその後、座り込んで膝をかかえた。

「……そんなの……取るわけ……ない、じゃない……!」

膝に顔を伏せて、泣きじゃくるように樹里が叫ぶ。そしてそのまま肩を震わせて、嗚咽をあげ始めた。

「ーーそんなの……そんな、の……! 無理………だよ…!」

しゃくり上げる樹里。理解したのかもしれない。

樹里が俺をどうしても諦められないのと同じように、俺もがどうしても欲しいということを。

そう、俺と樹里は同士なのだ。俺はを好きになって初めて、俺を求めてやまない樹里の気持ちがわかった気がする。

「歩夢の……ばか……馬鹿! ほんとに……馬鹿!」

「…………」

馬鹿だよなほんと。

もし、今の俺が樹里にしているように、に拒絶されたら、俺はどうなってしまうのだろう。

今の樹里なんて比じゃないほどに、俺は絶望して、壊れてしまうかもしれない。

「ーー樹里」

「う……るさい! も、もう歩夢なんて……嫌い! あっち、行ってよ! 大っ嫌い! ばかぁ……!」

「…………」

座り込んでなりふり構わず号泣する樹里。完全無欠の美少女からは程遠い姿だったが、皮肉なことに、俺が知ってる樹里の中では1番魅力的に見えた。

ーー樹里が俺の前で欠点を出さないよう、完璧でいようと常に気を張っていたことを、俺は昔から知っていた。

そんなに無理しなくてもいいよ、と言ったこともある。だけど樹里は「何も無理なんてしてないよ」と、天使の微笑みを浮かべるだけだった。

こんな風に素直に感情を出してくれていたら。もっと弱さを俺に見せてくれていたら。

俺たちはもっと、違う関係になれたのかもしれない。

ーーだけど、もう終わりだ。

「ごめん、樹里」

そして俺はとめどなく涙を溢れさせる樹里を1人残し、の待つコテージへと戻った。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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