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3/8 コロラド州 ベイルリゾート ベイルビレッジ No.2

 

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歩夢side

「やっぱ似合ってるね、それ」

向かいに座るをじっと見ながら言うと、彼女はやや照れくさそうに目を逸らした。

「ーーあ、ありがとう」

そして俺から視線を外したまま、少しあわあわした声音を上げる。ーー相変わらずちょろくてかわいい。

ショップでピアスを購入したあと、夕飯にはまだ早い時間だったけれど、少し休んでから帰ろうということで、俺たちはカフェのオープンデッキでひといきついていた。

の両耳に光るゴールドのフープピアス。が失くしたのは両耳用のうちの一つだけだったが、今回俺も両耳用のものをプレゼントしたため、残っていた1つは記念に残す形にして外し、両耳とも今日購入したものを付けている。

ーー俺がもともと付けている、シルバーのフープピアスとまるで色違いかのようなピアス。

に今回あげたピアスが似合っているのは紛れもない事実だけれど、俺が意図的に自分のものと酷似しているピアスを選んだことを、君は気づいているのだろうか。

普通は誰にも触らせないような、そして髪で隠れて見えない時もあるような、耳たぶ。ーーそんな少し秘密めいたの身体の一部に、俺の手垢を付けたかのような、そんな感覚。

ちょっと妙な気分になる。を少し征服したかのような。独占欲が、少し満たされる。

「けど、結構高いのに、買ってもらちゃって。ーーなんかごめんね。気を遣わせたみたいで」

俺のそんな欲望を知ってか知らずか、は心底申し訳なさそうに言う。

やっぱり、男から何かを受け取るのに慣れていないタイプ。まあ、思った通りだけど。

「いいよ、いつもお世話になってるし」

「いや、私の方こそ」

「いいんだって。俺があげたかったんだから。素直に喜んでください」

「ーーわかりました」

俺が少しふざけて敬語で言うと、もおかしそうに笑って調子を合わせた。そして何気なく耳のピアスを触り、ふふっと嬉しそうに微笑む。

その表情は、こみ上げてくる嬉しさを噛み締めているように、俺には見えて。ーーまあ、俺の思い込みかもしれないけど。

自分がを喜ばせることをできる存在だと思えて、俺の想いが極端な一方通行ではないように感じられて。

今日ピアスを買いに行ったことに嬉しさを覚えているのは、むしろ俺の方なのかもしれないと思えた。

「あ、ちょっと喉乾いたから、コーヒーもう1杯もらってくるね」

「了解」

そう言うと、は席を立ち上がり店内に入った。歩きざまに上機嫌そうな、まるで鼻歌でも歌いそうな横顔が見えた。

あんな顔されると、ピアスなんていくつでも買ってあげたくなる。ちょっとだけ女性に金を落としてしまう奴の気持ちがわかった。

まあ、は物を受け取ることに遠慮するタイプだから、俺が破産する心配は無さそうだが。

ーーなんて、俺がぼーっとくだらないことを考えていると。

「ーー歩夢」

傍らから柔らかで可憐な声。別に声の主のことを嫌っているわけじゃないけれど、との幸せなひと時に水を差された気がして、俺は落胆する。

「……樹里」

彼女は俺がついているテーブルの脇に立ち、目を合わせた俺に視線を重ねた。

その表情は、少し悲しそうに見える、真顔だった。

「何?」

俺が短く言うと、樹里はその場に立ったまましばらく黙ったあと、静かに口を開く。

「ーーあの子にピアス買ってあげてたね」

「見てたの?」

「……偶然お店に入るのが見えたから」

覇気のない声で言う。いつもきらきらとしていて眩しいくらいの樹里の漆黒の双眸は、少し虚ろに見えた。

「歩夢がピアスを付けてあげて、ちゃんは嬉しそうで。楽しそうだったね、2人。ーー歩夢のあんな顔、初めて見た」

「…………」

「ーー私には、あんなことしてくれたこと、ないのに」

樹里とは恋人だった頃、記念日やクリスマスに何度かプレゼントを渡したことはあるし、店で一緒に選んで買ったこともある。

でも、さっきとピアスを選んだ時のような高揚した気持ちを感じることはなかったし、「絶対に似合うから」と言いながら、俺が積極的にプレゼント選びに参加するようなことは無かった。

「ーー何が言いたいの」

俺が低い声でそう聞く。ーーすると、樹里は。

「歩夢はちゃんが好きなの?」

声の震えを抑えるように、恐る恐る俺に尋ねた。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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