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3/8 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.1

 

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歩夢side

セミファイナルでは、4回転や苦手な左側の壁での難易度の高い技は入れなかったが、俺は無事1位で通過した。

予選だから他の選手も様子見のようなRUNが多かったため、抑え目のルーティンでも高得点を出すことが出来た。

だが、ファイナルではそうはいかないだろう。ショーンは出場していないが、スコッティは絶好調だし、来夢だって侮れない。

ーーファイナルは攻めていかなければ。

そんな風に、セミファイナルを終えたことによる少しの安堵と、ファイナルへの決意を胸に抱いていた、その日の昼下がりだった。





「どうしたの?

がさっきからリビングや自分の部屋、洗面所やキッチンなど、コテージ中を行ったり来たりして、落ち着かない様子だったので俺は尋ねた。

見たところ、何かを探しているようだが。

「あー、うん……ちょっとね」

「なんか探し物?」

「うん……まあ、大したものじゃないから、気にしないで」

リビングのソファの下を覗き込んでいたは、傍らに立つ俺を見上げて言った。

大したものじゃない割に、さっきから必死で探しているように見えるが。

さては、俺が今日セミファイナルを終えたばかりで疲れていると考えて、遠慮してるな。には自分のことを二の次にして、人を慮る傾向が大きい。

ーーまあ、そんなところも好きなのだが。

だけど、俺はセミファイナルとその前の練習で疲労困憊するほど、やわじゃない。

「で、何落としたの?」

俺がさらに尋ねると、はソファに座って、ちょっと元気がなさそうにこう答えた。

「……ピアス」

「ピアス?」

は左耳に2つ、右耳に1つピアスホールが開いていて、両耳に小さめのゴールドフープピアスと、残った左耳の穴にシンプルなジュエリーピアスを常につけていた。

の耳を覗き込むと、フープピアスのうちの1つが付けられていない。

「今朝はあったんだけど、さっき気づいたらなくて……。今日はセミファイナルもあったし、外で落としたのかもしれないけど」

笑って言うが、その微笑みは少し無理をしているようにも見えた。

「大事なピアスをなの?」

俺が尋ねると、は少しの間黙った。たぶん大事な物と言うと、俺が絶対に一緒に探し出すから迷惑をかけると思っているのだ。ーーのことだから。

「……うん。初めて写真が売れた時のお金で買ったやつだから」

でも嘘がつけないは正直に言うことを選んだ。

初給料での自分へのご褒美、か。それは思い入れもあるだろう。

そんな風に、俺がしんみり思っていると。

「あ! でもいいの、もう! 結構探したけどないし、諦めるよ。外で落としたんじゃもう見つけるのは無理だしねー」

努めて明るく言う。から元気なのが丸わかりだ。ーーまったく、しょうがない。

、このあと出かけられる?」

「ーーえ? なんで?」

「俺が新しいの買うから」

が驚いたような顔をして、見開いた双眸を俺にぶつける。

「観光地だから、少し歩けばいっぱい店あるし」

「えっ……そんな、いいよ! ピアス1個くらい! それに歩夢くん疲れてるでしょ?」

が首をぶんぶん横に振って、必死に否定する。俺はそんなの隣に座り、彼女の顔を覗き込んでこう言い放つ。

「俺はあれくらいじゃ疲れない。あんまなめんなよ」

「ーーえ、はい……ごめんなさい」

至近距離だったからか、顔を赤らめて俯き加減に言う。ーーあ、この「ごめんなさい」すごくかわいい。

「それにが落ち込んでんの見る方が疲れるから」

「え……私、そんなに落ち込んでなんか……」

「そんなこと言っても、顔に書いてある。ほんとに嘘がつけないね、は」

「う……」

言葉に詰まる。なんか面白くなってきて、俺はもっといじめたくなってしまった。

「あー、俺が買ってあげるピアスじゃー、そんなに嬉しくないかな? やっぱ初給料の思い出には適わないか」

「……! そ、そんなことないよ!」

「じゃーどう思ってんの」

俺が首をかしげて尋ねると、は赤い顔のまま、少し言い淀んだ後、

「すごく……嬉しい、です……」

ちょっとしどろもどろになって言う。ーーなんでいちいち可愛いんだこの人。

「じゃあもう行こ」

立ち上がり、座っているの手を取って軽く引っ張って、彼女を立ち上がらせる。

「え、もう?」

「早い方がいいじゃん。ーーそれに」

来夢に見つかったら付いてきそうだし、海祝や友基がこのことを知ったら変なことを焚き付けられそうだから早く出発したい。

「それに、何?」

「ーーいや、なんでもない」

なんて、言わないけど。運良く全員自分の部屋に居るやら外出やらしていてよかった。

「歩いてすぐのとこにブランドショップいくつかあったよね。とりあえずそこ行こ」

「うん。ーーあ。……歩夢くん」

「ん?」

「ーーありがとう」

はにかんだ微笑みを咲かせて、嬉しそうにお礼を呟くは、いつにも増して愛しく見えて。

俺はぎゅっと抱きしめたくなる衝動に駆られたけれど、早く出発しなくてはならないことに気づき、残念に思いながら、堪えた。

あ、念の為出かけた直後に、海祝にLINEで「ちょっとと出かけてくる」と送ったら、「d('∀'*)」とだけ返事が来た。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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