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3/7 コロラド州 ベイルリゾート ベイルビレッジ No.5

 

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「え? そう?」

「うん。だって五輪のフラワーセレモニーでは自分が登る表彰台通り過ぎて係員に引っ張られるし、ほかの大会のシャンパンファイトではいつもうまく開けられなかったり上手に撒けなかったりするし」

「へー、そうなの?」

「うん。ーーあ、あとイベントでは自分が主役のくせに何故か端っこに立ってスタッフを困らせたり。他にも、そんなエピソードが……」

「……甘いわね、ちゃん」

すると樹里ちゃんは声のトーンを下げて、不敵な笑みを浮かべた。

「え……? どういうこと?」

「私のレベルになってくると、それすらもかわいく見えてくるの! 試合ではかっこいいのに普段は天然の歩夢! 萌え!」

「…………お、おう」

私のレベルって言うのが一体何のレベルか分からないが、激しく歩夢くん萌えを熱弁する樹里ちゃんに、私は圧倒される。

その後も樹里ちゃんは幼少時の歩夢くんのエピソードを、楽しそうにたくさん語ってくれた。私もここ最近の歩夢くんの様子を彼女に伝えると、とても嬉しそうに聞いてくれた。

そして、食事もほぼ終わり、そろそろお開きかなと思った頃。

ちゃんと歩夢について話せてすごく楽しかったー! 今日はありがとうね!」

「うん! 私も楽しかったよー、また行こうねー」

「行こ行こ! ーーそれにしてもちゃん、本当に歩夢のことよく見てるし、よく分かってるね〜」

「まあ……マネージャーだから、見ておかないとね」

私は残り少なくなったドリンクをストローでかき混ぜながら、何気なく言う。ーーすると。

「本当に……それだけ?」

樹里ちゃんの声のトーンが少しだけ下がったので、私は手の動きを止め、樹里ちゃんの顔を見る。

樹里ちゃんは相変わらず美麗な微笑を浮かべていたけど、その瞳には少し不安そうな光が宿っているように見えた。

「え?」

「ーーちゃん。答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど」

「うん……?」

ちゃんは歩夢のこと、好き?」

私は彼女を見つめたまま、硬直する。

歩夢くんを好きかどうか。友人として、マネージャーとして、好きか嫌いかで言えば大好きだが、樹里ちゃんが聞いているのはそういうことじゃない。

自分ですら答えを出せていない、出さずに置き去りにしている問題を問われ、私はしばらくの間黙ることしかできなかった。

「……歩夢くんは」

そして私が口を開くと、樹里ちゃんは少し身を乗り出して、私の声を聞こうとした。

「歩夢くんは、私なんかを相手にしないよ」

ーーだから好きにならない。好きになったって、どうしようもない。

歩夢くん次第という受け身な答えなので、卑怯かもしれない。でも、私は今の自分の状況を正直に説明したかった。

私は自分の気持ちに決着をつけていない。

そもそも決着をつける必要なんてないのだ。様々な偶然が重なったために今は身近にいるけれど、本来なら歩夢くんは、私にとって雲の上にいるような存在。

私が歩夢くんを好きか嫌いかだなんて、彼にとっては熱狂的なファンが1人増えるか減るか。その程度の、些細な問題なのだから。

ーーしかし。

「ーーそうかなあ」

樹里ちゃんは真剣な面持ちで私を見つめながら言い、さらにこう続ける。

「だって、たぶん歩夢は……」

そこまで言うと少し俯き、樹里ちゃんは言葉を止めた。そのあと小声で何かを言ったような気もしたけれど、よく聞こえなかった。でも、聞き返すのはなんとなくタブーな気がして、やめた。

「ーーあ、ごめんね。最後に変なこと聞いて」

樹里ちゃんは顔を上げると、笑みを浮かべて言う。少し作り笑いのようにも見えた。

「え、いや……」

「はい、今のなしね! さ、帰ろー!」

「う、うん」

明るく言う樹里ちゃんに私は流され、うなずく。しかしほっとしている自分もいた。

あれ以上追求されたら、困窮してしまうだろうから。

そして私たちは一緒に帰路についた。コテージに着くまでの間、私たちは自分の身の上話や好きなことなど、楽しくいろいろ話をした。

だけど、歩夢くんのことは一切話さなかった。







樹里ちゃんの歩夢くん萌えのくだりは私の心の叫びです。
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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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