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3/7 コロラド州 ベイルリゾート USオープン会場 No.3

 

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「怖いに決まってるのにね。去年大怪我したとこなんだから。そんなの怖くないです大丈夫ですなんて人、いないよね」

寒いから暖かい紅茶にしよ、と決断し、財布からコインを取り出し、投入口に入れた。

「でもさ、今回ほどじゃないにしても歩夢くんって、勝負をかける時は怖さを持って滑ってるでしょ? 私ね、それを押し殺して乗り越えて飛んでる時の歩夢くんがさ……鬼気迫ってて、すごくかっこよく見えて」

購入した飲み物を取り出し口から手に取り、私はさらに続ける。

「Xゲームの3本目のRUNの時、それを見てこの人の写真撮りたいなーって思ったんだよね。また見たいなあ、ああいう歩夢くん。ーーあ、ごめん。怖いのにまた見たいなんて」

そこまで言ったあと、歩夢くんからしばらくの間何も言葉が返ってこなくて、私ははっとして彼に視線を合わせた。

歩夢くんは少し口を開け、呆けた表情で私を見ていた。予想外の反応に私は狼狽する。

「ーーえ、ごめん。なんかまずかったかな、私……」

「……いや」

すると歩夢くんはきょろきょろと周りを見渡し始めた。その行動の意味が分からず、私は首を傾げる。ーーすると。

「はわっ!?」

いきなり歩夢くんが勢いよく抱きしめてきたので、私は変な声を上げてしまった。

「ちょっ……な、なに……!?」

驚きと戸惑いの声を上げるけど、歩夢くんは何も言わないままぎゅっとさらにきつく私を抱く。さ、さっき周囲を見渡していたのは、誰か他にいないか確認していたのか……。

歩夢くんの突然の抱擁は、熱がこもっていたけどいやらしい感じは全くなくて。

彼の中にある、決意とか、覚悟とか。そういった奮い立った感情を、私を抱く腕には込められていた気がした。

それを文字通り肌で感じた私は、もう声は上げずに、大人しく歩夢くんの腕の中にいた。

しばらくして、歩夢くんが腕の力を緩めた。私は恐らく赤くなっているであろう顔を歩夢くんに向ける。

するとそんな私を見て、歩夢くんはいつものように不敵に笑う。

「ーーセミファイナルはちょっと間に合わないかもしれなけど」

「うん?」

「ファイナルには見してやるから。……カメラ、用意しといてね」

私をじっと見つめて、自信ありげに言う歩夢くんは。ーーいつもに増して、本当にかっこよくて。

樹里ちゃんの「歩夢はいつでもどんな時でもかっこいい」という言葉を、私は改めて実感した。

「うん……!」

なんたが嬉しくなって、私は微笑んで、深く頷く。そんな私に、歩夢くんは優しい瞳を向けながら、撫でるようにぽんぽんと頭を触った。

「じゃ、また練習してくる」

「ーーうん」

そう言って私に背を向け歩夢くんは歩み出す。恐怖を越えるために、去年重症を負わせたハーフパイプへと、彼は向かう。

彼に撫でられた部分の髪の毛に、妙に温もりが残っていて。

私は遠ざかる歩夢くんの背中を眺めながら、自分の髪の毛を名残惜しい気持ちで、触った。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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