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3/6 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.3

 

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テレビの中でしか普通はお目にかかれないようなアイドルや女優ですら、大半は樹里には叶わないだろう。

ーーだけど。

の方がかわいいよ」

正直な思いだった。

アクのない、整った顔立ち。大きく澄みきった光を宿す双眸。全身痩躯で長い手足。いつもサラサラと風に靡く髪。

名前の容姿だって相当のものだ。街を歩けば10人中9人は振り返るだろう。

だが、樹里は10人中10人が確実に釘付けになる。単純な造形美なら、は樹里には劣っているかもしれない。しかしの魅力は、彼女が動くたびに何乗にも上乗せされていく。

カメラを構えた時の、深い意志を湛えた瞳。俺が少しちょっかいを出すだけで、真っ赤になってしまう頬。見る度に桜が満開になったかのような感覚に陥る、笑顔。

そして俺がいつももっとも欲している言葉をくれる、形の良い唇。

樹里よりかわいいとか、かわいくないとか。もはやそういう問題ではないのだ。

俺にとって大切なのは、なのか、そうじゃないのか。以外の女の子なんて、いくら美人だろうがスタイルが良かろうが、全て同じなのだ。

ーーしかし。

「は、はあ!? そ、そんなわけないじゃん!」

赤面しながらも、は胡散臭そうな顔をして俺を見る。

が自分の魅力に気づいてないのは分かっていたけれど、俺は彼女のそんな反応に苛立ちを覚えてしまう。

ーー俺の心を掴んで離さないくせに。何言ってんだ、こいつ。

「ーーねえ、さあ」

「な、何!?」

「いい加減自覚してよ」

「え!?」

が男好きする容姿、してるってこと」

「え……?」

は俺の言葉に呆けた表情をする。本当に自覚がなさすぎて笑える。

ずっとカメラのレンズしか眺めていないから、こんなに鈍くなってしまうんだ。

「ーーだからさ、もうヤバいんだよね、俺」

「は……!?」

俺が声を低くして言うと、は壁側に後退しようとしたようだが、もうすでに行き場はない。

いつも無防備だからーー今も。すぐキスしたくなるんだわ」

「え……!? ちょ、ちょっと……! もうキ、キスはしないってば!」

はいまだに洗濯物を抱えながら、顔を俺から背けた。

あー、ヤバい。そうやって逃げられるのも。ーーそそられる。

「……いやだ」

俺は小さくそう言うと、の顎をつかみちょっと強引に俺の方を向かせる。そしてが何かを言いかけようとした口を……。 塞ぐ。自分の口で。

「……んぅ……!?」

足元に布の感触。驚いたが持っていた洗濯物を落としたようだった。

は抵抗する素振りを見せたが、俺が顎を掴んでいる手を離さず、唇をさらに深く侵略するように口付けると、そのうち大人しくなった。

の唇は、相変わらず柔らかくて熱くて。思わず食べてしまいたくなってしまう。唇だけでなく、すべてを。

ーーそして、俺が唇を離すと。

「……もう……なん……で」

力が抜けてしまったらしいが、壁を背にその場で座り込んで、手の平で顔を覆う。表情は見えなかったけれど、耳たぶと指の隙間から見えた頬は、赤く染まっている。

「だってかわいいから」

もう一度本心を言う。は顔を上げて、赤面しながらも俺を睨んだ。ーーヤバい。怒ってんのかな。

と、思ったけれど、なんだか一瞬が嬉しそうに少し微笑んだような、そんな風に見えた気がして、俺はその表情を見ようと目を凝らした。

しかしその瞬間、は、勢いよく立ち上がり、逃げるように部屋の入口までダッシュした。

「せ、洗濯物! 歩夢くんのせいでぐちゃぐちゃになったんだから! 自分で畳んでよね!」

そんな捨て台詞を吐いて、勢いよくドアを開け、は部屋から走り去ってしまった。

なんか最後わりといつもの調子だったな。そんなに怒ってないのかも。それならよかった。久しぶりにキスできて満足だし。

ーーそれにしても。

一瞬微笑を浮かべたように見えたのは、俺の見間違いなのだろうか。顔を赤くしながら、こみ上げる嬉しさを堪えるようにも見えた。

俺とキスをすることで、にも嬉しい気持ちが少しでも発生するんだろうか。

ーーだったら教えてくれよ。それならいつだって何度だってキスしてやる。

俺はが勢いよく閉じた扉を眺めながら、ぼんやりと思ったのだった。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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