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3/4 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.6

 

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「ごめんみんな。作ってもらっちゃって」

コテージに戻ってきた歩夢くんは、いつも通りに小さく笑っていた。仲間うちだけに見せる、気を許した表情。

「樹里なんだってー?」

聞き辛いことを、焼きあがったお好み焼きをテーブルの上に置きながら英樹さんがあっさりと尋ねる。すると歩夢くんは、英樹さんの隣に座りながら、特に動揺した様子もなく、すぐにこう答えた。

「応援しに来ただけだって。去年怪我の瞬間生で見てたから心配だったみたい」

「えー、本当にそれだけかよ?」

「って言われたけど」

來夢くんの言葉に歩夢くんが迷わずに返答した。その淡々とした返し方に、歩夢くんに十中八九嘘がないことが分かる。

ーーだけど。

「……応援するだけの人が抱きつくかな?」

歩夢くんから少し離れた位置にすわる私の隣の海祝くんが、ぼそりと呟いた。自分の心を読まれたような気がして、私は小さく身を竦めた。

「ねー、?」

海祝くんが私の顔を覗きこんできたので、私は慌てて作り笑いを浮かべる。ーー自然に笑えてる自信はなかった。

「さあねえ」

分からないしそこまで興味無い、という軽い口調を演じる。海祝くんはしばらく私を見ていたが、私がお好み焼きを食べようと箸を持つと、目を逸らした。

「よしじゃあ食べようか」

友基くんがいつものおっとりした口調で言った。みんなはそれ以上、樹里ちゃんについて歩夢くんに突っ込む気は無いらしい。ーー別れた彼女のことなんて、触れづらいのだろうか。そもそも男の子はそこまで他人の色恋沙汰にそこまで興味がないのかもしれない。

そもそもみんな、真剣にUSオープンで戦うために、ここにいるわけだし。

「おー、じゃあいただきまーす」

『いただきまーす 』

來夢くんの言葉を皮切りに、一同一斉に食べ始める。私は食欲なんてほとんどなかったけれど、不自然じゃないスピードで箸を動かし、お好み焼きを口に入れていく。

「あ、。これってポテトチップス入ってるの?」

食べ始めてからしばらくすると、歩夢くんが私に向かって言った。

「歩夢くんのは入ってない種で焼いたやつかも。私のは入ってるよ」

「そうなんだ。が推してたから試しに食べてみたいんだけど」

「あ、じゃあ私のちょっといる?」

すると歩夢くんは「ちょうだい」と言いながら席を立ち、私の方へとやってきた。

「あ、この辺まだ口つけてないから」

私は自分の皿を差し出し、手をつけていない方をお好み焼きの刺さったフォークで指し示す。

ーーすると。

「1口でいいや」

歩夢くんは私が持っていたフォークをさっと取ると、そのまま自分の口へと運んだ。

私の食べかけだった、お好み焼きの1切れを。

「え……」

一瞬のことで、私は固まってしまう。他のみんなは食べるのに夢中で歩夢くんの行動を見ていなかったようだ。というか、仲間うちならこれくらいどうってことないのかもしれない。

ーーだけど、私には。

「ん? どうしたの、

私がおどおどしていると、歩夢くんが私の顔を覗きこんできた。いつものように、照れる私を見て楽しそうに。

本当に、いつも通り。しばし前の出来事など、なかったかのように。彼にとっては大した出来事ではないかのように。

「な、なんでもない」

「ふーん。ーーあ、これ言ってた通りおいしいわ」

「そ、そう?」

「種残ってるなら、後で焼いてくれない?」

「ーーうん」

私がコクリと頷くと、歩夢くんはちょっと満足そうな顔をして、元いた場所へと戻って行った。

その後の歩夢くんも本当に、拍子抜けするくらい普段通りで。他のみんなと冗談を言い合ったり、私が焼いたポテトチップス入りのお好み焼きを「これ、はまるね」と言いながら食べたり。

だけど私は、どうしても歩夢くんが樹里ちゃんに抱きつかれている光景が、何度も何度も脳内に蘇ってきてしまって。

せっかくみんなで作ったお好み焼きの味が、よくわからなかった。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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