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3/4 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.5

 

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「ーー応援するだけなら構わないよ。ありがとう、こんなところまで来てくれて」

俺は溜息混じりに彼女にこう言った。

「よかった」

樹里が微笑む。満開の桜が一気に咲いたかのように。だけど俺の心は微塵も動かない。

ーーどれだけ俺の内面は、あの人に支配されているのだろう。

「じゃあ俺は戻るよ。みんながご飯作って待ってるから」

「ーーうん」

そう言うと、俺は踵を返して樹里に背を向ける。ーーすると。

「ねえ、歩夢」

樹里がゆっくりと少し低い声で言う。俺は立ち止まるが、彼女の方は向かなかった。適当に流せないようなことを言われそうで。

「でもね、私はまだ歩夢が好き。この気持ちは変えられない。ーーどうしても」

――どうして樹里は俺なんかを想い続けられるのだろう。

樹里にとって、俺は決していい彼氏ではなかったはずだ。身を焦がすような恋というものを知らなかった俺は、樹里の押しに流されて、なんとなくいつの間にか恋人という関係になって、なんとなく付き合いを続けていた。

冷たくあしらったことだって、一度や二度ではなかった。――去年別れた時だって。俺は相当ひどいことを彼女に言ってしまったのだ。心から慕ってくれる、かわいい女の子に対して。

しかし、自分が人生をかけているスノーボードのに関して邪魔をする奴には、鬼にでも悪魔にでもなれる。俺はそういう奴なんだ。

俺は少し間を置いてから答える。

「……俺はそれには応えられない」

少し冷たい声で。期待させる方が酷だろう。俺は樹里とはやっていけない。根本的に生き方が違う。

ーーそれに俺は今は。

俺はそのままコテージの扉へと続く階段を上がり、ドアノブに手をかけた。ドアを開けようとしたら「いいの、それでも」という声が背後から聞こえてきた。

ーー本当にそうか? だって樹里はいつだって、俺からの想いを掻き集めては喜び、少しでも愛されようと全身全霊をかけていたではないか。

そんな樹里が、見返りを求めないなんてことはあるのだろうか。

いや、やめよう。樹里がそう言っているのだから。俺は何も気にしない。気にしないで、USオープンに臨む。

気にしないのだから、樹里の前でもとは普段通りに接する。俺をずっと見ていた樹里なら、すぐに俺の気持ちに気づくだろう。

ーー別に構わない。それで俺みたいな冷たい奴のことなんて諦めればいい。

君にはもっと大切にしてくれる人が合う。俺みたいな、孤独な闘いの中に身を置いて、苦しみながらもそれがやめられないような、そういう生き方しかできないような変な奴とは、決して相容れないんだ。

君がどんなに俺に恋焦がれようとも、俺は君を好きになることはない。申し訳なささえ覚えてしまう。だけど君の気持ちがどうしても変わらないように、俺の気持ちだって、いくら足掻いたところで変わらない。

俺はそのまま何も言わずに、コテージの中へと入った。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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