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3/4 コロラド州 ベイルリゾート コテージ No.4

 

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歩夢side

「去年と同じところに泊まってたらいいなあ、って思って来たの。まさか本当にいるなんて、思わなかった」

樹里は雪を眺めながら、無邪気にかわいらしく笑う。その頬は、周囲の雪よりも透明で真っ白だが、中心だけピンクに染まっていて、相変わらず絶対的な美しさを誇っていた。

「……樹里。なんでここに」

俺はなるべく感情を込めずに、淡々と言った。数メートル先に建つコテージでは、たちがお好み焼きを作っているところだろう。ポテトチップス、本当に入れるのかなとぼんやりと思った。

「相変わらずドライだね、歩夢は」

俺の方をくるっと向き、笑みを絶やさずに樹里が言う。彼女の全身のどこを切り取っても、美しくない箇所など恐らくない。ーーまるで男の理想のすべてを詰め込んだような、樹里。

俺にとっては、もちろんが一番かわいく見えるのだが、と樹里では魅力の種類がそもそも全く違う。の魅力は、女としての色香というよりは、見るものに元気や活力を湧きたててくれるような、満ち溢れた生命力。――まあ、そんな全年齢向けのだからこそ、他人には決して見せない乱れた姿を、どうしても見たくなってしまうのだが。

対して樹里は、男の欲望をダイレクトに刺激するような、小悪魔的な要素が大きい。

「普通さ、昔の恋人がこんなところまで来たら、感動の再会とかに、ならない?」

「ーー大学はどうしたの?」

「春休みだよ。歩夢はあんまり行ってないから、知らないんだね」

愛くるしく小首を傾げる。それはまるで血統書付きのふわふわの子猫のような、庇護欲をそそる姿。こういうのって、どこで覚えてくるんだろう。樹里の場合は、天賦の才能な気もするが。

ーー地元が同じで、小学生の頃から俺の後ろをついて回っていた樹里。

俺には他に親しい女の子なんていなかったし、樹里は小さな頃から可愛かったから、まあそれなりに好意は持っていた。

しかしやっぱり中学生や高校生の男子というものは、女と遊ぶよりも男とつるむ方が楽しい時期で。樹里に対して、冷たい態度を取ってしまったことが多々あった。

しかも俺には他の一般的な男性とは違い、スノーボードに打ち込まなければならないという宿命がある。そのことがさらに樹里をおざなりに扱ってしまう機会を多くした。

それでも樹里は俺から離れることは無かった。どんなに俺が冷たい態度を取っても、俺が気まぐれにちょっと視線を送るだけで、樹里は心底嬉しそうに微笑んだ。

ーー唯一、樹里が俺に負の感情を見せるのは。俺が遠征や大会でしばらく会えなくなると言った時。そんな時は、泣きながらすがってきたり、行かないでと抱きついてきたりしたものだった。

そんなことが重なるうちに、俺は樹里との別れを考えるようになった。

ーーそして決定的だったのは、1年前の出来事。USオープンの会場であるここベイルリゾートに、樹里を連れてきたときに起こったことたった。

「樹里」

俺は少し強い口調で言った。真剣な面持ちで彼女を見据える。すると樹里は俺を真っ向から見返してきた。

「何、歩夢」

「俺はもう、樹里のこと」

はっきりとした声音で言う。そのあとに続く言葉は言わなかったけれど、分かっているはずだ。

ーー一年前の、俺の言動を忘れたわけじゃないだろう。

「……分かってるよ」

樹里は笑みを絶やさない。たが少し翳りのある微笑になった。

「応援しに来ただけ。怪我のこと、心配だったから。これでもオリンピックが終わるまで待ったんだよ? 歩夢が動揺しないように」

「悪いけど今もかなり動揺してる」

「ーーごめんなさい。どうしても会いたくなっちゃった」

瞳を少しだけ潤ませた樹里は、さながらスクリーンの中にいる女優のよう。これに屈服しない男は、きっと頭のねじが1本足りないのだろう。

しかし、俺はそれに該当する男だった。俺のねじは、ある人に奪われてしまったから。

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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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