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3/4 コロラド州 ベイルリゾート スーパーマーケット No.2

 

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歩夢くんは私の答えを聞くと、にんまりと微笑んだ。

「へー、俺たち新婚に見えるのかな?」

私が挙動不審になっているのに、歩夢くんは追い打ちをかけるように面白がるような口調で訊いてくる。

「さ、さあ……?」

「そういえばショーンもそんなこと言ってたよね」

「そ、そうだっけ?」

「周りがそう言うんだし、今夜の部屋に行くわ」

「は、はあ!? な、なんでよ!」

「新婚なんだからやること決まってるでしょ」

大胆なことを言っているくせに、照れた様子など全く見せずにはっきりと歩夢くんが言う。

私はもういっぱいいっぱいで、耐えきれなくなり歩夢くんの背中をばーんと叩いて、

「もう! そんなことばっかりなんだから! いい加減怒るよ!」

と、焦りを誤魔化すように(たぶん誤魔化せていないけど)、声を上げた。

すると歩夢くんは、私の高まった神経とは到底見合わない、ほんのちょっとだけ困った顔をしてやれやれという声音でこう言った。

「まったく、相変わらず冗談の通じないだね」

「私が乗ったら冗談じゃなくすくせに……」

「よく分かってるね。さすが」

「…………。もう会計しよ」

私は歩夢くんを置いていくようにショッピングカートを早歩きで押す。「ちょっと待ってよ」と言いながら私の背中を追いかける歩夢くん。

歩夢くんは、見た目も中身も、スノーボードに対する姿勢も、本当に本当にかっこいいから。

私をからかう冗談を、気を張っていないと真に受けてしまいそうになるんだよ。

ーー本当に、ずるい人。





会計の列はわりと混雑していた。まだ私たちのカートの前には3人ほどが会計待ちをしている。

そこで私ははっとあることに気づく。

「あ! 忘れ物した!」

「ん?」

「ポテトチップス!」

そうだ。あまり知られていないけれど、入れると屋台風の味になるのがポテトチップス。

癖になる美味しさのお好み焼きができるので、みんなにも味わってもらいたかった。

「……マジで入れるの?」

味の想像がつかないらしい歩夢くんは、苦笑を浮かべる。

「だからおいしいんだって!」

「ほんと?」

「ちょっと取ってくるから並んでて!」

「まあ、いいけど」

歩夢くんを会計のレジに残し、私は小走りでスナックの陳列棚へ向かう。

確かこっちだったよな。

心当たりがある場所に向かうために、私は角を曲がる。ーーすると。

「きゃっ!」

私が勢いよく曲がったせいで、誰かとぶつかってしまった。高くかわいらしい小さな悲鳴が響いた。

ぶつかった人物は少しよろけただけだったが、持っていたらしいお菓子を床に落としてしまった。

「あ! すいません!……じゃなかった、sorry!」

焦って咄嗟に日本語が出てしまう私。ここにいるなら9割方アメリカ人なはずだ。彼女が落としたお菓子を拾いながら、英語で言い直す。

「ーーいえ、日本語通じますよ」

お菓子を私が差し出すと、ぶつかった彼女は私に向かって微笑んだ。

そのほほ笑みを至近距離で目にした私は息を飲んだ。

艶やかな黒髪はきっと枝毛ひとつないだろう。肩くらいに切りそろえられ、きれいにワンカールしていた。髪とお揃いの漆黒の瞳は、見るもの全てを魅了してしまうのではないかと思えるほど、深みのある美しさを湛えている。

そして抜けるように白い肌に、薄いリップが塗られたピンクの薄い唇、小さい顔。また、ダウンの上からでも分かるくらいに、出るところは出ているが、手首は折れそうなくらいに細い身体。

ーー非の打ちどころがない。絶世の美少女だった。

私は女でありながら、あまりのきれいさにぼーっと見蕩れてしまう。

「こんなところで日本の方がいるなんて」

優しい微笑みを浮かべる彼女。笑顔も完璧なかわいらいしさ。私が男ならなんでもしてあげたくなるだろう。

「あ、あの。すいません、ぶつかってしまって」

「いえ私は大丈夫ですよ」

焦って噛みながら言う私に対して、彼女の口調はたおやかだ。ーーいやあ、掛け値なしの美少女は違いますなあ。

「あなたもUSオープンを見に?」

美少女が小首をかしげながら私に問う。

見に、というか選手側の関係者なのだが、説明するのも面倒なので私は頷いた。

「そうなんですね。日本人が少なくて……会場でお会いできたらいいですね」

「そ、そうですね」

「ふふ。じゃあ急ぎますんで私はこれで」

美少女は最後まで完璧なほほ笑みを浮かべて、踵を返すと颯爽と歩いて行ってしまった。姿勢まできれいだ。どこかに欠点があるのだろうか。

それにしても、あんなきれいな子がこんなアメリカの奥地までスノーボードを観戦しに来るなんて。よっぽど熱心なファンなのだろう。

あの子、歩夢くんのファンだったりして。

あんなに可愛い子の心まで奪ってしまうなんて。歩夢くんのやつ……。

まだあの子がファンと決まった訳では無いのに、適当なことばっかり言っているあの男がなんとなく腹立たしくなる。

ーーあ、そういえば。

「ポテトチップス持ってくんだった」

レジで歩夢くんが待っているはず。私はアメリカらしい特大ポテトチップスの袋を1つ抱え、レジの方へと小走りで向かった。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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