3/4 コロラド州 ベイルリゾート スーパーマーケット No.1
- 2018/06/01
- 13:07
Your name
「何買う?」
「豚肉とシーフードとチーズは鉄板だよね〜」
「あ、もうその辺だけで充分じゃない?」
「えー、明太子とかお餅も美味しいよ」
「お好み焼き屋行くとにそういうメニュー多いね」
「あとポテトチップス入れると意外とおいしいよ〜」
「……マジで?」
そんな会話を歩夢くんと繰り広げながら、コテージ最寄りのスーパーでショッピングカートを押す私。
デンバー国際空港から私達が宿泊するコテージに着くと、英樹さんと海祝くんが「夜ご飯はお好み焼きにしたい」と言い出した。
アメリカのスーパーで材料が揃うのだろうか?と私は不安になったが、英樹さんがお好み焼き粉とお好みソースを持参していたので、具だけなら売ってるんじゃない?という一同の意見によりー―。
買い出しじゃんけんをした結果、負けた私と歩夢くんが具材を揃えにスーパーに赴いたのだった。
買い出しじゃんけんの後、なぜか來夢くんが「俺も行く!」と言い、友基くんと海祝くんにすごい勢いで止められるという1幕もあったけれど。荷物多くなりそうだから、ついてきてくれてもよかったのに。
「明太子はここのスーパーにはないかもね……お餅も美味しいんだけどなあ」
シーフードミックスや豚バラ肉、飲み物など、揃えられるものをカートに入れてから、私は陳列棚をきょろきょろ見渡しながら言う。
「うーん、その辺は確かにね……店員に聞いてみる?」
「そうだね。あ、ちょうど店員さんいるね」
すぐ近くに商品の陳列作業をしている初老の女性がいたので、私は尋ねる。
「――Excuse me.Do you have rice cake with Mentaiko?(ーーすいません。明太子とお餅ありますか?)」
すると店員の女性は困った顔をする。
「Sorry, this place is small so I have not put anything like that. I think that I have put aside a bigger supermarket.(ごめんね、ここは小さいからそういうのは置いてないの。もうちょっとおっきいところなら置いてると思うんだけど)」
「Ah, that's right. Thank you very much.(あー、そうなんですか。ありがとうございます)」
「I am sorry, cute newlyweds.(ごめんなさいね、可愛い新婚さん)」
「…………え……!?」
女性の言葉に驚く私だったが、彼女はすぐに私から目を逸らして作業に戻ってしまった。
し、新婚さんだなんて。でも確かにこうやって2人であーだこーだ言いながら夕飯の材料の買い物をするって……すごく新婚ぽいような。
歩夢くんと、新婚……。
新婚という言葉に、世間の一般的な新婚さんのイメージを、歩夢くんと私で当てはめてしまい、私はその場でどきまぎしてしまった。
ーーすると。
「ねえ、」
少し下を向いてしまった私の顔を、歩夢くんが覗き込んでくる。
「今の人なんて言ったの?」
私の瞳をじっと見つめ、楽しげに問う。こ、これは。
絶対分かってるでしょ意味。
「し、知らない!」
また歩夢くんの手の平の上でおちょくられると思ったので、私はぷいっと横を向く。
すると歩夢くんはいまだに余裕のある笑みを浮かべながら、こう言った。
「えー、ダメでしょ、」
「な、何が!?」
「通訳の仕事、ちゃんとしないと」
「な……」
ーーずるい。そう、私は歩夢くんの通訳兼マネージャーなのだ。れっきとした契約書を交わし、賃金だって労働に見合った対価以上のものを頂いている。
雇用主に与えられたタスクはきちんとこなさければならないのだ。
「め、明太子とお餅はないって」
「ふーん、そっか。……で、そのあとは?」
「…………」
だから絶対ヒアリング出来てるでしょこの人。
「ごめんなさいね、新婚さん……だ、そう、です…………」
言ってる間に恥ずかしい気持ちが高まり、最後の方は消え入りそうな声で言う。
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