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3/4 コロラド州 デンバー国際空港

 

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「歩夢! ちゃん!」

來夢が俺たちの姿を見つけるなり、いつもの人懐っこい笑みを浮かべて手を振ってきた。

デンバー国際空港に着くと、到着ロビーのソファにおなじみの来夢と友基、そして俺の兄弟の英樹と海祝が座って待っていた。

彼らは数時間前に別の便でここに到着していた。俺たち2人はどうしても都合が合わず、1つ後の便になってしまったのだ。

別々に宿泊先のコテージに行くのも面倒だし、彼らが到着したのが丁度お昼前だったので、ランチでもして待っているとのことだった。

「来夢くんと友基くーん! 英樹さんに海祝くんも!」

笑顔で手を振る。来夢と友基とはXゲームからの付き合いだが、英樹と海祝は平昌五輪で俺の応援に来ていた時に、出会って仲良くなったらしかった。

「平昌以来だね、ちゃん」

〜、にーちゃんのこといろいろありがとうね〜」

「英樹さんに海祝くん! 元気だったー?」

「おー元気よ元気」

「兄弟で初の国際大会だからねー。体調はばっちりだよ」

気安い様子で話し始める3人。英樹も海祝ものことはわりと気に入っているようだった。年の割に思慮深い海祝は、最初は「女の子がマネージャーなんて、大丈夫なの?」なんて言っていたが、の性格と真面目さを知ってからは、すっかり懐いている。

ちなみに天然の英樹は「おー可愛い子じゃんやるねー」と言うだけだった。まあ昔から俺と英樹はお互いのやり方について意見を言ったり咎めたりすることはない。仲はいいのだが。

「歩夢と、俺は久しぶりだね」

今度は友基がぽんっと俺の肩を叩いて言う。

「Xゲーム以来だね、友基」

「久しぶりー!」

俺とが口々に言うと、友基はの方を見て何故か笑いを堪えるような顔をした。

「あのさー、

「ん?」

「平昌の決勝の時さー、転んだでしょ?」

「え……!? 何故それを!?」

「いやだって、中継で映ってたよ。端の方に」

「ええええー!?」

友基の言葉に驚愕の雄叫びを上げる。五輪の時、友基は日本でテレビの中継を見ていたはず。と、いうことは。

「全世界に……生中継……私のこけた姿……」

茫然自失した様子で、は肩を落とす。

「あ、ごめん……いや、でも画面は歩夢メインだったし! 端の方にちょっと映ってただけだったから! よく見ないとわかんないよ!」

のあまりに悲痛な様子に、ついさっきまでをおちょくる様子だった友基が、焦ったようにフォローを入れる。

「ほんと〜?」

恨みがましい目でが友基を見ると、友基は高速で何回も縦に頷いた。

「えー、ちゃんがかわいく転ぶとこ見たかったなー、俺」

「ちょっ……來夢くん! かわいくないしそんなもの見なくていいから!」

「五輪サイトに動画残ってんじゃないの〜?」

「ちょっと! 英樹さんまで!」

心底残念そうに言う來夢とからかうように言う英樹に、が非難がましく突っ込むと、一同は笑いに包まれた。

ーー俺がみんなのそんな様子を見ていると。

「ねえ、にーちゃん」

いつの間にか俺の横に来た海祝が小声で言う。

「ん、何?」

とはいつ付き合うの?」

しごく不思議そうに首をかしげながら尋ねる。ーーは?

「ーー何言ってんの」

「だってにーちゃんのこと好きでしょ。きっとだってにーちゃんのこと……」

「……俺たちは今はそういうのはいいの」

曖昧な方向に返答する俺。まだ15歳のくせに、海祝は妙に鋭かったり大人びていたり、はっきりものを言うところがある。

「ふーん。なら、にーちゃんの彼女でも大歓迎なんだけどな、俺」

「なんで」

「……少なくとも前の人よりは。あの人はにーちゃんとは合わなかった」

そう言うと、次に俺が何かを言う前に、海祝はたちが話している輪の中へと入って行ってしまった。

ーー前の人。

海祝の言葉に、俺の「前の人」に当たる人物が思い起こされる。

この場所……USオープンで起こったことがきっかけで、離れることになった彼女。どんな時でも、どんな俺にも、全てを受け止めるような笑みを浮かべ、俺を肯定しかしなかった「前の人」。

「歩夢くーん、そろそろ行くよー」

少し離れた場所からの声が響き、俺の脳内は現在の時間軸に引き戻される。の顔を見た瞬間、頭に浮かんだ「前の人」の姿は一瞬で消えてしまった。

そういえば、は俺の前で色々な顔をする。笑ったり、怒ったり、恥ずかしがったり、焦ったり、時には泣いたり。

本当に見てて飽きない。面白くて、読めなくて、愛しい。

ーーもう「前の人」とは終わったことだ。

断言出来る。今の俺の恋心は、100パーセントに支配されていると。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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