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酔いどれ No.2

 

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「あ、じゃあ私が結弦くんに伝えておくね。 歩夢くんも行くこと」

「あ、いいよ。俺が伝えるから」

「そう? わかった」

なんて言ったけど、俺はあいつの連絡先なんて知らない。

羽生くんがと二人きりで会える、と浮き足立っているところに、俺が登場して一泡吹かせてやりたかったのだ。





「あー、これおいしいね〜」

焼いた特上カルビを頬張りながら、本当に幸せそうに満面の笑みを浮かべてが言う。

それに対して、隣にいる俺は「そうだね」と微笑ましく彼女を見て答えた。

の正面に座る羽生くんも、そんなを眺めながら相変わらず優雅な微笑を浮かべていた。

ーー待ち合わせ場所に俺が出現した時はさすがに一瞬顔を引きつらせたけれど、そのあと一切スマートな表情を崩さないのは、さすが氷上のプリンスだと謳われているだけある。

夕食の場所は、都内の某有名焼肉店だった。の「肉が食べたい」という希望を考慮して、羽生くんが決めたらしいが。 現在、テーブルについているのは俺と羽生くんとーーのみ。3人だけだ。

何が他の人も来る、だ。最初からと二人で会う気だったに違いない。

には「みんなは都合が悪くなって来れなくなった」と言っていたけれど。まあ、は馬鹿正直だからあっさり信じたようだった。

「2人が来てくれてよかったよ。せっかく都内にいるのに、1人でご飯食べることになるとこだった」

羽生くんがにこにこ微笑みながら言う。ーー全くよく言うな、この人は。

「私も来てよかったよー。結弦くんに会えたしおいしいお肉も食べれるし」

「俺もに会えて嬉しいよ」

の「会えてよかった」は、兄弟としてだからな。そこには恋愛感情は一切ないので勘違いしないように、羽生結弦。

俺は半ば自分に言い聞かせながら、目を細めて羽生くんを見ながら思った。

するとは通りかかった店員に「オレンジジュースください」と注文すると、席から立ち上がった。

「私ちょっとお手洗いに行ってくるね」

ーーマジかよ。今羽生くんと二人きりになったら気まずさMAX。一体何を話せばいいのやら。

しかしトイレに行くななんてもちろんそんなことは言えないので。

「いってらっしゃい」

俺がそう言うと、はトイレのほうへ歩いて行ってしまった。

残された俺と羽生くん。しばしの間、二人とも声を発さずお互いに仏頂面で見つめ合う。隣のテーブルの客が「スクリュードライバー1つ」と注文する声が聞こえてきた。ーーすると。

「で、なんで平野くんがここにいるわけ?」

羽生くんはため息混じりに、心底嫌そうな顔をした。

がね、「歩夢くんと一緒に行きたい」ってどうしても言うから」

勝ち誇ったように事実を言ってやった。紛れもない事実。嘘だと思うならに聞いてみればいい。

すると羽生くんは一瞬悔しそうな顔をすると、大げさに再度嘆息した。ーーこの人、俺の前だとわりと感情表すよな。

「なんだよ、もう。平野くんはいつもと一緒にいるんだから、今日ぐらい譲ってくれたっていいじゃん」

不機嫌そうに言う。確かに羽生くんの立場を考えると、とデート出来るチャンスは滅多にない。お互いに忙しい2人が、こんなに近くに滞在している現在は奇跡に近い状態だ。

ーーだけど。

「1秒も譲りたくないね」

俺はにべもなく言う。誰が最大のライバルにみすみす機会を与えるかっての。

すると羽生くんは顔を引きつらせた。彼が発する苛立った気配がひしひしと伝わってくる。

「平野くんって案外ケチだね。そういうの嫌われるよ」

「他の人もいるよ、なんてが行きやすくする嘘つくよりはマシだと思うけど」

「……君まだ未成年だよね。今日は大人の時間だよ。お子様は帰ったら?」

「羽生くんってお酒受け付けない体質らしいね。年齢の割にお子様なのはどっちなんだろ」

「……なかなか言うね」

「そっちもね」


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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