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酔いどれ No.1

 

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歩夢side

五輪報告会も昨日終わり、怒涛のメディア関係の仕事ラッシュも幾分が落ち着いた日の、昼下がりのこと。

俺はと一緒に、宿泊している都内のホテルの近くのカフェに滞在中。遅めの昼食を食べ終えて、2人でまったりとしていた。

そんなとき、テーブルの上に置いておいたのスマホが振動した。

「あれ、誰だろ」

言いながら、スマホを取って誰かからのメッセージを確認する。するとは何かに思考を巡らすように虚空を眺めたり、スマホをいじって何らかの確認作業をしたりし始めた。

「どしたの、

「あ、今日の夕方以降ってなんか予定あったかなあと思って」

「今日は久しぶりになんもなかったと思うけど」

「あ、そうだよね!」

俺の言葉には瞳を輝かせ、心底嬉しそうな顔をした。

「それなら、私今日出かけてきてもいいかな? 誘われちゃって」

うきうきとした口調で俺に尋ねる。今日はとどこかでゆっくり夕食でも楽しもうと思っていた俺は、少しーーいや、かなり面白くない。

しかしそんなことはお首にも出さずにこう言う。

「いいけど、どこ行くの?」

「うーん、どこかはまだわかんないんだけど」

「誰と?」

「結弦くん」

そのを聞いた瞬間、俺の心臓が凍りつく。ーー結弦くん、だって?

いつも優雅な佇まいで、生まれながらの貴族のように振る舞うあいつ。昨日の報告会でも、偶然隣になった瞬間があって、「は元気?」と余裕の笑みを浮かべて聞いてきたあいつ。

そして宣言通り、怪我をしながらも金メダルを掴み取った、すごいやつ。

俺と羽生結弦は、ただの五輪代表同士という間柄ではなく、という存在を奪い合うという嫌な意味で深い仲である。

「ふーん、そうなんだ」

あくまで何気ない、大してなんの不都合もないような、淡々とした口調で言う。

「二人で行くの?」

さりげなく、何の思惑もないように。

「ううん、フィギュア関係の人もいるみたい。いろんな人が来るからよかったらどう?って」

他の人も来るって? ほんとかよ。嘘なんじゃないの、それ。

あのしたたかな男のことだ。

心配だが、誘われていないのに付いていくのもな……。もし本当に他の人間がいたら嫌だし。

そんなことを俺が思っていると。

「あ! じゃあ歩夢くんも一緒に行こうよ!」

「え?」

思ってもみないの提案だった。

「でも俺も行っていいのかな」

「いいんじゃない? いろんな人が来るみたいだし」

「でもさ」

「いいじゃーん、行こうよー。私歩夢くんと一緒がいい」

難色を示す俺に、ねだるようにが言う。「歩夢くんと一緒がいい」、なんて。

不意の愛らしさに、思わず抱きしめたくなる。

全くこの子は。これでなんの裏もないのだから、本当に恐ろしい人間だ。

奴に誘われたがここまでしつこく言うのだから、俺が着いて言っても言い訳できるだろう。

がそう言うならーー行こうかな」

「わーい!」

彼女のその反応に、俺は心の底から喜びを覚える。羽生くんに会うというのに、俺が一緒がいいと要求する。それは彼女があいつに対して兄弟以上の感情を抱いていないという、事実。


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Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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