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1/21,コロラド州 アスペン Xゲーム会場 no.2

 

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「……正直、幸せ者だよちゃんは」

「え…?」

 滑り始めた歩夢くんを目を細めて見据えながら、来夢くんが言う。私も歩夢くんからは目は逸らさないが、言葉の意味がわからず聞き返す。

「歩夢の滑りを、こんな近くで見れるなんて」

 ――どういうこと?

 問いただす前に意味が分かってしまった。それは穏やかな歩夢くんからはおよそ想像もできなかった。

 彼は高く、しなやかな動きで空に向かって飛んでいた。そこには重力を全く感じさせない。そして鳥が羽を休めるかのようにパイプの円弧状の部分にふわりと着地をする。

 そして反対サイドへボードを滑らせ、また飛んだかと思うと、くるくると全身を美しく回転させた。早くて、何回回ったのか私には理解できない。

 頭の中で、歩夢くんと目の前でボードを走らせている人物が一致しない。それほどまでに、彼のスタイルは私の想像を絶していた。

 しかし、紛れもなくあれは平野歩夢くんなのだ。ボード、雪、傾斜も高さも容赦ないパイプ。彼は全てを味方につけていた。

「ね、すごいだろ?」

 得意げに言う来夢くん。きっと来夢くんも、歩夢くんのRUNに惚れているのだろう。だから自分事のように、誇れるのだ。

「すごすぎ…なんであんなことできるの!? 歩夢くん何者!?」

「へ…何者って。まさかちゃん知らないの?」

「え、何が?」

「歩夢のこと…って、本当に知らないんだな」

 パイプからドロップアウトした歩夢くんが、ゴーグルを額にあげこちらに歩み寄ってくるのが見えた。

 先程ボードを操り縦横無尽に空を舞っていたのは、紛れもなく平野歩夢くんだったのだ。あの、落ち着いていて、マイペースで、他にはない魅力を持つ、かっこいい歩夢くん。

「4年前のソチ五輪。史上最年少のメダリスト。…銀メダルだったけどね。そして今は世界ランク一位。平昌で金メダルが期待されてる」

「………はっ………?」

 来夢くんの信じられない言葉に、私は絶句することしかできない。

 えええええ! なになに!? 私そんなすごい人に空港でいきなり話しかけて、衣食住の面倒見てもらって、服まで借りて、それからえっと……とにかくいろいろ助けて貰ったのーー!?

 驚いて声も出ない私の方に、歩夢くんは「…ちょっと鈍ってるな」といつものちょっと気だるそうな、魅惑的な声で呟きながら、事も無げに歩み寄ってきたのだった。


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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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