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風邪 no.4

 

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「ま、まあ……そのまま寝ちゃった」

「なんだ。せっかくと一晩過ごせたんなら、俺起きてればよかったわ」

「ばっ……馬鹿! そんなんじゃ風邪治んないじゃん!」

「あ、そっか」

私の突っ込みにくすっと笑う歩夢くん。毎度のことだけど、どこまでが冗談なのか本気なのかわかんないよな……。

「まあ俺はもう平気だよ」

「あーよかった。でも今日も休みだから念の為ゆっくりした方がいいよ」

「そうだね」

そう言うと、歩夢くんは立ち上がり天井に向かって伸びをする。それにつられて、私も立ち上がろうとした。

ーーすると。

「あ……れ……?」

目眩とともに足元がぐらつき、私は立ち上がれずにベッドにもたれこむ。そして妙に自分が肌寒いことに気づいた。

ーーまさか。

、どうしたの?」

「ーーごめん」

「ん?」

「うつった……」

私は苦笑を浮かべて言う。考えてみれば、私もここ数日はほぼ歩夢くんと同じリズムで生活していたのだ。自分だって疲労はたまっていたし、睡眠だっていつもよりは取れていない。普段より身体は弱っていることは間違いない。

ーーさすがにこんな状態なら、風邪知らずの私の体も菌に負けてしまったというわけだ。

歩夢くんは私の言葉に一瞬固まるが、次の瞬間には少し心配げな顔をした。

「マジで。大丈夫?」

「うん。やたらだるいだけ。歩夢くんと同じやつだと思う。ーーごめん、うつらないと思って調子乗った」

「いや。うつしたの俺だし。ってか、最近ずっと一緒だったし、うつらないほうがおかしいから」

「そっか……」

か細い声で答える。風邪をひいたという事実を突きつけられ、急に倦怠感が酷くなった気がした。

ーーすると。

「わっ!?」

急にふわっと体が浮き、私は驚きの声を漏らす。

歩夢くんが私の体を抱えあげたのだ。私の首の後ろと太ももの後ろに腕を回して。ーー言わゆるお姫様抱っこと言われる状態。

「ちょ、ちょっと!」

「相変

わらず軽いね、は」 「おろして!」

「いいじゃん歩きづらそうだし。部屋まで運ぶ。ほら、鍵出して」

「……うー。すいません……」

歩くのが辛いことは確かなので、私は渋々彼の言葉に従う。ポケットに突っ込んでいたカードキーを出すと、彼は私を抱きながら器用に受け取った。

ーー私それなりに重いと思うんだけど……。さすがアスリート、それでも軽々と持ち上げてしまう。

そして歩夢くんは私を私の部屋まで運ぶと、ベットに私を優しく下ろした。私は素直にそのまま寝そべる。

「熱ある?」

すると歩夢くんが上から私の顔を覗き込んでそう言った。

「寒気がするし、あると思ーー」

言っている途中で、歩夢くんがにやりと笑ったので私は言葉を喉の奥に引っ込める。彼の魂胆を理解した時はすでに遅かった。

彼は私に覆いかぶさるようなーー押し倒したような体勢を取ると、自分の額と私の額を合わせた。そして鼻と鼻がふれあいそうな距離で、クールに笑う。

湯上りの歩夢くんがいつもに増して色っぽくて。今私の体温を計ったら、人間としてはありえない数値をたたき出せる気がした。

「うーん、ある……かな?」

「ちょっ……なっ……」

「よくわかんない。口と口合わさないと」

「な、何言ってんのーー!」

私は風邪でかすれた声で叫びながら、慌てて彼の胸を押し、瞬時に寝返りを打って体を丸める。

すると身を起こした歩夢くんが私を見下ろしながら、さも私に非があるかのような口調で、言う。

「ちょっとー、熱あるか知りたいんだけど」

「た、体温計あるから!」

「何そのつまんない測り方」

「つま……!? とにかく余計熱上がるからやめて!」

「なんで熱上がるの?」

「え、それは……」

「俺は熱はかりたいだけなんだけどな」

白々しい口調で言う。ーー全くこの男は!

「もしかして酷いんじゃない? あ、これはと同じことしてあげないと」

「同じ……?」

よくわからず、私が不審げに問うと、自分の隣からドサッという音がした。慌てて音がした方を向くと、歩夢くんが私の隣に寝そべっていた。そして振り向いた私の頬に軽く手を添えて、優しく、しかしどこか狙ったように言った。

「一晩一緒にいてあげるよ。ーーなんなら添い寝も」

「なっ……」

もう熱で頭がぼーっとするのか歩夢くんのせいで熱くなってるのかよくわからない。

「け、結構です! あ! ほら! 近寄るとうつるよ!?」

「俺からうつった風邪だから俺はもううつらないと思うけど」

歩夢くんを諦めさせる名案だと思ったのに、あっさりと論破されてしまう。しかし彼の言う通りだ。私も熱のせいで深いことが考えられなくなっているらしい。

「で、でもいいから! ほんとに!」

「遠慮しなくていいよ。心細いでしょ?」

「ほんとにほんとに大丈夫だからー! もうあっち行ってー!」



ーー結局。

このあと何度も歩夢くんに添い寝されたりおでこをくっつけられたりして大変だったけれど、なんだかんだで病院に連れて行ってくれたり飲み物や食べやすいものを用意してくれたりして、彼の献身的に看病のおかげでその日のうちに私の熱は下がってしまった。

ちなみに唇の貞操は守れた。ーーたぶん。私が寝てる間のことは、神のみぞ知る。





スッキリを体調不良でキャンセルした日の裏側です。小話くらいに考えていた内容だったんですけど、意外とちゃんとした話になりそうだったので小説にしました。
歩夢くんは主人公が寝てる間にキスはしてないです。ドSなので反応が見たいから寝てる時にやってもつまんないからです。

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泰人

Author:泰人
昔いろいろ夢書いてました。

久しぶりに書いてます。

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