風邪 no.2
- 2018/05/24
- 14:33
Your name
「キスでもしてくんのかと思ったわ。ーーあんなにいきなり近寄られたらヤバいんだけど、俺」
「え!?」
言われて初めて気づく、自分の行動の浅はかさ。お母さんがよくやってくれてたから自分もやったけど、よく考えれば年頃の男女がやるのはちょっとまずい……かも。
「そ、そんなんじゃないから! ああすると熱あるかどうかわかりやすくて!」
「ふーん。ーーあ、また熱上がってきたかも。もう1回確認していいよ」
「はぁ!? あ、歩夢くんキスする気でしょ!?」
歩夢くんの魂胆を見破り、私がそう問い詰めると。
彼は少しの間黙って何やら考えたあと、やけに真顔でこう言った。
「考えてみると今そんなことしたら風邪うつしちゃうよね。ってことで、治ったら熱の確認とキスしてもらうことにするわ」
……………歩夢くんがいつもよりアホになっている。もしかして結構ひどいのかもしれない。
「治ったら確認しなくていいでしょうが! っていうか治ってもキスなんてしないから! もう寝ろーー!」
早朝のホテルの個室に私の絶叫が響いた後、歩夢くんはいたずらに失敗した子供のような笑みを浮かべてから、瞳を閉じた。
「大したことなさそうでよかったねー」
「うん。点滴でだいぶよくなった」
ホテルの近くの病院へ行き、診察を受けたら「疲れの睡眠不足で免疫力が低下して風邪を引いたのだろう」と医者から話を受けた。
念の為インフルエンザや溶連菌の検査も受けたけれど反応は出ず。歩夢くんの立場上、早めに治さなければならないため、点滴をしてもらったのだが、それの効果は覿面で、歩夢くんの顔色はみるみるうちによくなった。
今は、なんだかんだですでに日が落ちてしまった時間帯。私は自室でシャワーを浴びた後、歩夢くんの部屋へ行き、ホテルから借りた体温計で彼の熱を測り終えたところだった。
ーー37.4℃。病院についた時点では38.9℃あったから、下がってきている。
私は体温計を見つめながら、安堵のため息をついた。
「もうだいたい平気かも」
ベッドに座りながら、わりとしっかりした口調で歩夢くんが言う。
「よかった。でも今日はもう寝た方がいいよ。まだ微熱あるし」
「わかってる」
私の言葉に素直に従い、布団に潜り込む歩夢くん。そして彼は寝転がりながら、ベッドの脇にしゃがむ私をじっと見た。
「にうつしてたらごめん」
「え? あー、たぶん大丈夫」
「なんで?」
「私あんまり風邪ひかないんだよね。念の為今日はマスクもしてるし」
そうなのだ。私は小さい頃から体だけは丈夫で、滅多なことでは風邪にかかることはなかった。
クラスの殆どがインフルエンザに羅漢して学級閉鎖になったときも無事だったし、風邪をひいている人と一緒の空間に丸一日いても、うつされたことはない。
「なんでだろうね〜? あ、私馬鹿だからかな」
「……ああなるほど」
「…………………………」
「ごめん嘘」
自分からふったけれどまさか乗ってくるとは。私は冗談混じりで歩夢くんを大げさに睨みつけると、彼は軽い感じで謝罪する。
まあこんな風に言い合えるならもうきっと大丈夫だろう。
だけど念の為、明日も休んだほうがいいな。
「あ。うつらないならさ、」
「何?」
「添い寝してよ」
歩夢くんがあまりにも平然と言うので一瞬理解が追いつかなかった。ーーは? え? 添い寝してよって……。
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